家庭内火災報告書
【発生時刻】
午後六時十四分。
【被害】
台所の壁および換気扇の一部焼損。
家族四人に重傷なし。
祖母、煙を吸ったため受診。異常なし。
【第一発見者】
小学六年の孫。
【各人の供述】
父:
「煙感知器の電池を外したのは私です。焼き魚のたび鳴るので、あとで戻すつもりでした」
母:
「帰宅が遅れることを、家族へ伝えていませんでした。誰かが夕食を用意すると思っていました」
高校生の姉:
「弟から助けてと連絡が来ました。でも試験勉強中で、母に聞けと返しました」
祖母:
「風邪で寝ていました。孫には何も作らなくていいと言いました」
孫:
「おばあちゃんが何も食べていなかったから、おかゆを作ろうとしました。鍋つかみを火の近くに置きました」
【原因】
鍋つかみが炎へ接触し着火。
ただし、煙感知器の不作動、家族間の連絡不足、調理経験のない児童が一人で火を扱ったことが被害を拡大させた。
【家族会議】
父は「全部、自分のせいだ」と言った。
母も「私が早く帰れば」と言った。
姉は弟へ謝った。
弟は泣きながら言った。
「ぼくが火をつけたんだから、ぼくの事件でしょう」
消防署員は、焼けた壁を見ながら答えた。
「火元は一つでも、事故の原因は一本の線ではありません。誰か一人を犯人にすると、次の事故を防げないことがあります」
【再発防止策】
一、煙感知器を交換し、月一回点検。
二、帰宅予定を家族画面へ入力。
三、子どもだけの調理は、電子調理器を使用。
四、祖母の体調不良時は、担当を決める。
五、助けを求められた人が対応できない場合、次の人へつなぐ。
【補記】
修理中、家族は居間で卓上調理器を囲んだ。
弟がおかゆを作り直した。今度は父が火加減を見て、母が帰宅予定を入力し、姉が祖母の薬味を刻んだ。
「これなら事件にならない?」
弟が尋ねた。
「失敗はするかもしれない」
父が答えた。
「でも、一人の事件にはしない」
【最終記録】
焼け跡は壁紙で隠さず、小さく残した。
誰かを責めるためではなく、家族の誰かが困ったとき、見て見ぬふりをしたことまで事故の一部になると覚えておくためである。