家族プラン三名まで

砂原蓮司は朝食のたび、食卓端末で《家族アルバム》を同期する。湯気の向こうで妻の琴葉が笑い、生後三か月の娘・真帆が指を握る。家族プランに登録できるのは三名まで。四人目を加える場合、利用頻度が最も低い一名が自動で外れる。それだけの規則だった。

三人暮らしなのに、枠は埋まっていた。

残る一名は、五年前に死んだ弟の拓海だ。蓮司の記憶には、海でふざけて水をかけ合った夏が毎朝同期されている。事故の直前、弟が「兄貴の子ども、見たかったな」と言った夜も。

真帆は出生後九十日まで仮登録できる。今日が期限だった。

「拓海くんを外そう」と琴葉は言った。「消えるわけじゃない。思い出しにくくなるだけでしょ」

蓮司はうなずけなかった。契約外になった記憶は脳内検索から除外される。写真を見れば人がいたことは分かるが、声も匂いも、自分との関係も戻らない。

琴葉は責めなかった。弟のマグカップを洗い、棚へ戻し、真帆のミルクを作った。夜泣きでほとんど眠っていないのに、朝には蓮司の弁当まで包んでいた。

出勤直前、端末が鳴った。

〈仮登録期間が終了しました〉

〈新規家族・砂原真帆を正式登録します〉

〈利用頻度を算定中〉

蓮司は拓海の項目を何度も開いた。昨夜も再生した。利用頻度なら一番高いはずだ。琴葉にも毎日触れている。家族を利用頻度で測ること自体がおかしいと、今になって思った。

判定が出た。

〈登録解除対象:砂原琴葉〉

「待て」

理由欄には、産後の睡眠不足で本人による記憶再生が少なかったため、とある。琴葉は日々を生きることに精一杯で、自分のアルバムを見なかった。それだけだった。

解除まで十秒。

蓮司は手動選択へ切り替えようとしたが、自動判定後の変更はできない。制度は家族の情で恣意的に一人を捨てさせないために作られていた。

琴葉が画面を見つめ、娘を抱き直した。

「この子の中には、私のこと残るよね」

カウントがゼロになった。

蓮司の腕の中で泣く赤ん坊を、知らない女があやしていた。彼女は自分の名前を何度も言いながら泣き、家の鍵を持っていた。

蓮司は警察へ通報しようとして、端末に表示された関係欄を見た。

〈登録外人物〉

それが、制度上の正解だった。