家族写真の同期先
朔良木直仁の家では、写真を一台の共有タブレットへ集めていた。
旅行、誕生日、両親の金婚式。妻の桜庭野灯弥は、その仕組みを「機械音痴の夫用」と笑っていた。
だから綾部塚和成との写真が家族アルバムへ同期されたときも、灯弥はすぐ消せば済むと思った。
ホテルの鏡に映る二人。直仁の服装を嘲る動画。和成が言う。
『あの人、共有設定も分からないだろ』
しかし画像は削除前に、直仁の両親と灯弥の両親の端末へも複製されていた。共有アルバムには変更履歴が残り、元画像の撮影時刻、位置情報、ホテルのWi-Fi接続先まで保存される。削除前の複製には、灯弥の腕時計の時刻と和成の社員証まで鮮明に映り、別の日の写真も同じ端末から連続して送信されていた。
灯弥は「合成写真だ」と主張した。
直仁は専門のデジタル鑑定書を出した。端末固有の撮影ノイズ、連続写真、クラウド側の受信時刻。加工の形跡はまったくない。ホテルから取得した廊下映像と、二人の入館時刻も一致した。
さらに灯弥と和成は同じ会社に勤め、出張扱いで宿泊費を請求していた。共有アルバムへ映り込んだ領収書番号から、監査室が二重精算を発見した。
家族会議には、人事部長も同席した。
「私生活だけなら就業規則の対象外です。しかし経費詐取と虚偽報告は別です」
二人は懲戒解雇となり、会社から返還請求を受ける。直仁の代理人は、鑑定済みの写真と動画を添えて慰謝料請求を送達した。
灯弥の父が、娘へ家の鍵と家族カードを返すよう言った。
「直仁君を笑う動画を、家族写真の中へ置いた時点で、お前は自分から家族を降りた」
灯弥は母へ助けを求めたが、母は共有タブレットから娘の管理者権限を外した。
直仁はアルバムを開き、二人の写真を消さなかった。証拠保全フォルダへ移し、家族の写真だけを元の場所へ戻した。
画面に〈桜庭野灯弥――共有停止〉と表示された瞬間、機械音痴と笑われた直仁は家族を守り、不倫した二人だけが同期先を失った。