家賃ゼロの幽霊屋敷
丘の上の屋敷には幽霊が出る。だから十年も空いていた。
麓では四人の孤児が厩の隅で眠っていた。領主フェルマが屋敷を住居にすると宣言すると、村人は青ざめた。
「子どもを化け物に食わせる気ですか」
「では、まず私が一晩泊まる」
夜半、白い影が現れた。だが正体は、屋敷を守り続けた老執事の残留思念だった。
『相続人以外を入れるな』
フェルマは契約魔法の文面を読み返した。
「相続人とは血縁者とは書いていない。屋敷を維持する責任を継ぐ者、とある」
翌朝、彼女は村会で制度を示した。屋敷の固定資産税を免除する代わりに、村の空き家すべてへ同じ条件を適用する。所有者不在の建物は、修繕費を公費で出し、利用者が維持記録を公開する限り居住料はゼロ。修繕費は家屋の窓一つにつき年銅貨一枚。大屋敷ほど多く負担し、納付は銅貨か建材で選べる。
「私の城は窓が百二十ある。百二十枚払う」
金持ちだけが逃げられない数字に、村人たちは顔を見合わせた。石工が煙突を、大工が床を、仕立屋が寝具を申し出た。幽霊退治ではない。自分の家もいつか空き家になるかもしれないと、皆が理解したのだ。
老執事は夜ごと廊下を巡り、雨漏りや鼠穴を光る文字で帳簿へ残した。村人は幽霊を恐れる代わりに、誰より厳しい監査役として頼るようになった。屋敷へ物を納めた者も、幽霊の前では水増し請求ができない。浮いた銀貨で、四人それぞれの机まで揃った。
孤児のポルは、入口の名簿に四人の名を書き、その下に老執事の名も足した。
『私は住人ではない』
「でも、夜番でしょう」
初めて幽霊が笑った。
屋敷には個室と共同室ができ、家賃の代わりに月一度、子どもを含む住人全員が壊れた箇所を帳簿へ記すことになった。会議の議長も毎月交代し、子どもにも順番が回った。直すかどうかは会議で決める。誰か一人の善意に依存しない家だ。
入居初日、門に新しい札が掛けられた。
――幽霊屋敷、空室なし。
白い老執事が玄関を開け、四人へ深く一礼した。