帰宅確認部の合鍵
二十二時以降に退館する社員は、帰宅確認部へ自宅の鍵を預ける。夜のうちに鍵が住所との適合を調べ、翌朝、緑、黄、白の札をつけて返す。緑はそのまま帰宅可。黄は玄関を三回ノックしてから使用。白は住所なし。白い札の鍵を持ち帰ってはいけない。
帰宅確認部を見た者はいないが、警備室横の細い引き出しは毎晩開いている。
ゲーム会社で進行管理をする永峯は、ひと月続いた修羅場のあいだ、ほぼ毎晩鍵を預けた。最初は緑だった。恋人の美羽が夕食を残して待っていたからだ。二週間目から黄になった。ノックすると、部屋の中でテレビが消え、少し間を置いて鍵が開いた。
三日前、美羽はスーツケースを持って出ていった。
「帰ってくる時間を聞くのに疲れた」
彼女は合鍵を食卓に置いた。永峯は謝る代わりに、進捗表を更新した。納期を守れば、生活もあとから追いつくと思っていた。
その夜、二本の鍵を引き出しへ入れた。自分の鍵と、美羽が返した鍵。帰宅確認部へ預けるのは使用者の鍵だけという規則だが、どちらが自分のものか見分けがつかなかった。
翌朝、一本には黄、もう一本には白い札がついていた。白い札には永峯の社員番号が印字されている。
彼は白い鍵を引き出しへ戻し、黄だけを持ち帰った。玄関を三回ノックしてから差し込む。鍵は回った。部屋には誰もいなかったが、二人用の食卓だけがきれいに拭かれていた。
次の夜も黄。次も黄だった。ノックするたび、室内のどこかで椅子を引く音がした。永峯は照明を全部つけ、クローゼットも浴室も見た。誰もいない。
納品日の夜、鍵は白い札で戻った。規則に従い、永峯は引き出しへ戻した。財布にはホテル代もなく、会社の仮眠室は満室だった。
警備員は「住所なしの方は、帰宅確認部の待合を使えます」と当然のように言った。場所を尋ねると、彼は永峯の胸ポケットを指した。
そこには預けたはずの鍵が入っていた。長さは爪ほどに縮み、白い札だけが元の大きさだった。
永峯が札を裏返すと、小さな間取り図が印刷されていた。六畳の部屋に、机が一つ。机の上には、帰ってこない人のための合鍵が二本、平行に置かれていた。