影踏み、最後の一回
小学生のころ、帰り道ではいつも影踏みをした。
高校生になってからは、そんな遊びを思い出すこともなかった。
卒業式まで一週間。幼なじみは、春から遠い町の専門学校へ行く。私は地元に残る。
放課後、二人で体育館の裏を歩いていると、夕日が背中から差し、長い影が前へ伸びた。
「一回だけやる?」
幼なじみが言った。
「子どもじゃないんだけど」
そう答えながら、私は走り出した。
オレンジ色の校庭を、二本の影が揺れる。上履きのまま外へ出たので、砂が靴の中へ入った。笑いながら逃げる私を、幼なじみが追う。
昔は私のほうが速かった。転んだ私を待って、わざと負けてくれた日もある。今はすぐに追いつかれる。
けれど、幼なじみは何度も踏み外した。わざとだと分かった。
「本気出してよ」
「出してる」
「嘘」
フェンス際まで走り、私は振り返った。
幼なじみの影が私の足元まで届いている。それでも靴は一歩手前で止まっていた。
「踏まないの?」
「踏んだら終わるだろ」
胸の奥が痛んだ。
卒業後も連絡する。休みに帰ってくる。何度も約束した。それでも、毎日会う時間は終わる。
「終わらない遊びなんてないよ」
私が言うと、幼なじみは黙った。
夕日が低くなる。影だけが近づき、私たちの間を埋めていく。
私は一歩前へ出た。
自分から、相手の靴の下へ影を差し出した。
「捕まえた」
幼なじみが小さく言った。
「遅い」
その言葉には、影踏み以外の意味も混ざった。
幼なじみは分かったように笑い、分からないふりをした。
「駅まで競争する?」
「もう上履きだよ」
「今さら」
私たちは校舎へ戻り、昇降口で靴を履き替えた。
校門を出るころには、影は街灯の下で短くなっていた。
最後の一回は終わった。靴の中には、逃げ回った校庭の砂が残っていた。
けれど翌日、机の中に小さな紙が入っていた。
『卒業式の日、延長戦』
私はその紙を折り、制服のポケットへしまった。
終わりの予感は消えなかった。
それでも、終わる直前まで遊び続けることはできると思った。