息を守る横向き
銀鉱山の坑道で、爆薬の煙を吸った鉱夫が意識を失った。
胸は上下している。だが口元から泡と吐瀉物があふれ、仰向けの喉でごぼごぼと鳴った。監督は酒を飲ませようと顎を持ち上げ、仲間たちは両脇を抱えて座らせようとした。
「動かすな!」
荷車引きのドルカが二人を押し退けた。
「お前は治療術を使えないだろう!」
「だから、息だけ守る」
ドルカは男の近い腕を頭の上へ伸ばし、膝を曲げ、身体を自分のほうへゆっくり転がした。横向きになった口から、詰まっていたものが石床へ流れる。顎が胸へ落ちないよう頬を腕に乗せた。
一呼吸目はまだ濁っていた。
二呼吸目で、ごぼりという音が消えた。
三呼吸目には、坑道の奥まで聞こえるほど空気を吸った。
監督が「元へ戻せ」と命じたが、ドルカは男の肩から手を離さなかった。治療師が到着する十二分の間、呼吸は一度も途切れなかった。
治療師は薬を使う前に、床の吐瀉物と男の向きを見た。
「仰向けのままなら、煙ではなく自分の吐いたもので窒息していた」
男は解毒術の後に目を開け、最初の言葉で監督を怒鳴った。
「酒なんぞ流し込んだら殺す気か」
坑道では昨年、同じ煙事故で三人が治療師の到着前に息を止めていた。今日は負傷者一人、呼吸停止ゼロ。使った道具も薬もない。
事故後、監督が床へこぼした酒は一杯分そのまま残っていた。もし意識のない男へ流し込めば、吐瀉物と一緒に喉へ入っていた。鉱夫たちは十二分間の呼吸を数え、合計百四十六回、胸が上下したと板へ記した。治療師の術が届いたのは、その百四十六回を失わなかった後だ。ドルカは治したのではない。ただ、治せる状態のまま渡した。
朝礼の直前、男は自分の足で坑口まで歩き、待っていた家族へ手を振った。
鉱山主は翌日の朝礼で、全班に横向きの救護姿勢を実演させた。監督が不満を漏らす前に、救護訓練の名簿からその名を消す。
代わりに最上段へ書かれたのは、荷車引きドルカだった。
「今日から坑内安全係だ。息をしている者を、治療師が来るまで必ず息をさせておけ」