投票後の裏切り
一ノ渡透子は、開始十秒で堀河勇磨へ投票した。
日向野佳奈が目を丸くする。
「まだ誰も裏切ってないのに?」
規則は未来形だった。
〈投票を締め切った後、最初に仲間を見捨てる人物を予想せよ。的中者一名を解放する〉
三人の足首は一本の鎖でつながれ、中央には一人分の解除鍵がある。投票締切後、十分以内に誰かが鍵を使えば、その者だけ鎖から抜けられる。ただし残る二人を見捨てた人物が「裏切り者」と判定される。
勇磨は開始から、協力を口にしていた。
「誰も鍵を使わなければいい。三人で別の出口を探す」
佳奈はそれを信じ、勇磨ではなく透子へ票を入れた。早すぎる投票が、鍵を独占する準備に見えたからだ。
締切音が鳴る。
透子は解除鍵を拾い、勇磨の足元へ滑らせた。
「使えば、あなたが裏切り者になる」
「使うわけがない」
そう言いながら、勇磨は靴で鍵を押さえた。
透子は壁の非常灯を消した。部屋が闇に沈み、佳奈が短く叫ぶ。三秒後、灯りが戻った時には、勇磨の足首だけ鎖が外れていた。
彼は鍵を握り、出口の前に立っている。
「違う。暗闇で誰かが――」
〈最初の単独解除、堀河勇磨〉
機械音が言い訳を切った。
透子は、開始前に見た彼の癖を思い出していた。係員が水を一瓶だけ置いた時、勇磨は真っ先に確保し、あとから「均等に分ける」と言った。選択肢が見える限り善人を演じるが、誰にも見られていないと思えば先に取る。
『投票時点では、堀河勇磨は裏切り者ではありませんでした』
「予想するゲームでしょう。だから、裏切らせた」
佳奈が呆然と透子を見る。
「暗くしたのも計算?」
「人は性格を隠せても、条件が揃った時の反射までは隠せない」
判定灯が透子の首輪を緑へ変えた。勇磨の出口は偽物で、扉の向こうは行き止まりだった。
透子だけに本物の扉が開く。
「未来を当てる一番簡単な方法は、相手が選びたくなる未来を置くことよ」
解除鍵が勇磨の手から落ち、長い音を立てた。