折れた車軸の値段
商隊が街道へ出て半刻、先頭の荷車の車軸が折れた。
荷台が傾き、香辛料の樽が坂を転がる。団長ドルバンは御者を殴りつけた。
「整備を怠ったな!」
「昨日、新品に替えました!」
原因は車軸ではなかった。片側に鉄鉱石、反対側に羽毛布団。見た目の隙間だけを埋めたせいで、重さが左へ偏っていた。
昨日まで荷を積んでいたシュカなら、樽一つごとの重量を指先で測り、車輪へ同じ負担がかかるよう配置していた。坂道に入れば下り側の荷を中央へ寄せ、雨で木箱が重くなれば水樽の位置を変える。積み終えたあと荷台へ乗って跳ねるのも、車体の軋みを聞き分けるためだった。だがドルバンは彼女を「物を持ち上げるだけの女」と切り捨て、賃金を惜しんで追放した。
「残りの荷車へ積み替えろ!」
命令どおりに積み替えると、二台目の板が軋んだ。誰も、どの荷をどこへ移せば均衡するのか分からない。護衛は魔物ではなく、転がる自分たちの商品を追いかけることになった。
そのころシュカは、山の採掘組合で銀鉱石の袋を荷台へ載せていた。
「右へ二袋。水樽を中央。帰りは空袋を外側へ」
組合長エッダが試しに車体を揺らす。左右のばねは同じ深さだけ沈んだ。
「見事だ。前の商隊では荷物持ちだったそうだが、うちでは積載設計士として雇う。車軸一本折れれば、君の一年分の給金より高いからね」
初便は急坂を越えても一度も傾かなかった。いつも荷崩れを直すため止まっていた難所も、そのまま通過できた。鉱夫たちは予定より早い昼食と、潰れていないパンに歓声を上げた。シュカの積載表は、翌日から全荷車の板へ貼られた。
夕刻、ドルバン本人が泥だらけで組合へ現れた。
「シュカ、戻れ。荷車が三台動かん。今なら追放は取り消してやる」
「取り消す?」
「給金も以前の一割増しだ。ありがたく思え」
エッダが鼻で笑ったが、シュカは淡々と新しい雇用証を掲げた。
「荷車を降ろされた瞬間に、あなた方との積載契約は終了しています」