捨てられない鍵の指紋
蟇目リョウの所持品欄に、見覚えのない黒鍵が入っていた。
《告発の鍵》
捨てられません。
廃棄操作を行った者の識別情報を保存します。
直後、金庫番が叫ぶ。
「聖庫の鍵が盗まれた! 持っているのはリョウだ!」
攻略中の礼拝堂で、ギルド員全員の視線が集まる。黒鍵は確かにリョウの袋にある。取引履歴はなく、誰かが戦闘中の自動取得へ紛れ込ませたらしい。
団長は即座に除名投票を始めた。
「盗人を残せば、ボス報酬まで奪われる」
リョウは弁明せず、鍵を捨てる操作を押した。
《廃棄できません》
《廃棄操作履歴:2件》
一件目は今のリョウ。もう一件ある。
履歴の識別情報は戦闘中、伏せ字になっている。礼拝堂のボス《審問官》を倒せば公開される。団長は急に討伐撤退を命じた。
「鍵を回収してからだ」
その慌て方で、リョウは確信した。
彼は鍵を持ったまま審問官へ突進する。ギルド員も半数が続く。団長は後ろから妨害魔法を放つが、鍵が審問官の胸へ近づくほど、伏せ字が一文字ずつ剥がれる。
最後の一撃で審問官が膝をつく。識別情報が完全に開いた。
《最初の廃棄操作:ギルドマスター》
団長は聖庫から資産を抜いた後、鍵をリョウへ押しつけ、証拠を消そうとして捨てようとしたのだ。捨てられない仕様を知らずに。
審問官は倒れず、リョウから鍵を受け取る。聖庫の扉が開き、空になった棚と団長名義の移送先が表示された。
《審問官討伐中止》
《告発の鍵に保存された最初の廃棄者を確認》
聖庫から消えたのは金貨だけではなかった。新人向けの蘇生薬、引退者が預けた記念品、戦死者の遺族へ渡すはずの手紙まで、売却一覧へ入っている。
リョウを盗人にすれば、金の不足も手紙の紛失も一人の罪にできる。団長が選んだのは、普段から無口で弁明が下手な者だった。
審問官は黒鍵をリョウへ返さなかった。代わりに、廃棄履歴の複製を全員へ渡す。
証拠は勇者が守る物ではない。捨てようとした手から離れず、疑われた者が一人でも立てるよう残る物だった。
《窃盗容疑者を訂正――鍵を持っていた者ではなく、証拠を手放そうとした者》