推薦文
弥生は、努力を見せないのが上手い。
同じ会社に入ったころは私のほうが評価されていたのに、気づけば彼女だけ本社へ異動し、次は海外研修の候補だという。本人は「運がよかっただけ」と言う。そう言われるほど、こちらの努力を軽く扱われた気がした。
それでも私は友達だから、転職を考える弥生のために推薦文を書いた。前の異動でも、人事へ彼女の不眠や家族の事情を先に伝え、無理な配属にならないよう頼んでいる。弥生はそのことを知らないが、陰で支えるのが友情だ。
〈彼女は繊細で、急な環境変化には配慮が必要です〉
〈責任感が強すぎるため、一人で抱え込み、連絡が途絶えることがあります〉
欠点まで正直に書くほうが、採用後に守ってもらえる。弥生には「長所を中心にした」と伝えた。送信前、彼女が封筒を開けようとしたので、私は手を重ねた。
「推薦は本人が見ないのが礼儀だよ」
もう一つ、面接の日程を一日遅く教えた。早く着きすぎて疲れないよう、開始時刻を勘違いしたふりをしたのだ。弥生は駅から走り、ぎりぎり間に合った。それでも採用された。
彼女はまた運で勝った。
数か月後、私も同じ会社へ応募した。面接官は弥生だった。昔からの友達なので席を外すと思ったが、彼女は資料を閉じ、最初に尋ねた。
「比奈子さんは、推薦文を書くとき、本人の同意を取りますか」
背中が冷えた。あの会社は推薦状を弥生へ開示したらしい。私は彼女を守りたかったと説明した。仕事で倒れたことも、失恋後に三日休んだことも、環境選びに必要な情報だ。
弥生は頷き、私が提出した職務経歴書を裏返した。そこには、前職の上司からの照会結果があった。
〈応募者は同僚の私生活を「配慮事項」として無断共有する傾向あり〉
〈本人が関与した日程連絡の誤りが複数確認された〉
「私、運がよかったんじゃないよ」
彼女は静かに言った。
「比奈子さんの推薦が届いた会社を、全部断ってきただけ」
面接室を出ると、受付の女性が私へ封筒を返した。封はされていなかった。
中の不採用通知には、推薦者の欄だけが空白のままだった。