救援箱を抱いた聖女

辺境の村が水害に遭うと、聖女候補のリディアは王都広場で募金を始めた。

「一万枚の銀貨があれば、子どもたちへ毛布を届けられます!」

彼女は泣きながら救援箱を抱き、集まった金で宝石の首飾りを買っていた。広場には、昼食代を削って銅貨を入れる子どももいた。だが被災地へ届いたのは、濡れた古毛布が三枚だけ。リディアはその写真すら、自分が泥の中で配ったように切り抜いて宣伝した。運搬係の青年ノクトが不足を指摘すると、皆の前で頬を叩く。

「盗んだのはあなたでしょう? 孤児上がりは金に汚いもの」

その場にいた記者たちは、聖女の告発を信じた。リディアはさらに、ノクトへ空の救援箱を持たせて写真を撮らせた。

「これで犯人らしく見えるわ。逃げたら、家族も共犯にする」

ノクトは救援箱を返し、何も言わなかった。箱の底に泥がついていないことだけを確かめる。被災地から戻った彼の靴には乾ききらない泥が残っていたが、リディアは一度も村へ行っていなかった。

三日後、王宮で救援式典が開かれた。リディアは王妃の前で、私財まで投じて一万枚を村へ送ったと誓う。証拠として運搬証明書を掲げ、自ら署名した。

王妃は首を傾げた。

「その箱は、ここにあるものと同じですか」

兵士が救援箱を運び込む。王家の募金箱は、開閉のたびに重量と開封者の魔力を底板へ刻む。記録には、リディアが夜中に箱を開け、九千二百枚を取り出したことが残っていた。

彼女はノクトが魔力を偽装したと叫ぶ。

すると記者が、広場で撮影した映像を壁へ映した。リディア自身が箱を抱いた瞬間、購入したばかりの首飾りの保証札が袖から落ちている。札の時刻は募金終了の一時間後。支払額は九千二百枚だった。

最後に、署名済みの運搬証明書が鑑定台へ置かれた。届け先欄は存在しない村名で、筆跡も署名もリディア本人のものだった。

王妃は式典用の祝辞を閉じ、代わりに黒い命令書を開く。

「聖女候補リディア。称号剥奪ならびに王国詐欺罪による逮捕を命じます」