敵対関係解消届は受理されない

市民防衛庁の波切日和と、秘密結社〈暗黒福利会〉の黒金万丈は、交際三年目で監査に見つかった。

防衛庁の規定では、敵対組織構成員との私的交流は禁止。

暗黒福利会の就業規則にも、正義側との恋愛は「組織理念を著しく損なう」と書かれていた。

監査官は二人へ三枚の書類を差し出した。

一、日和が防衛庁を辞める。

二、万丈が暗黒福利会を辞める。

三、恋愛関係を解消する。

「うち、今月だけで怪人が十二人育休なんです」

万丈が言った。

「僕が辞めると現場が回りません」

「防衛庁も台風怪獣の季節で人手不足です」

日和も言った。

「私が辞めると市民避難が回りません」

二人は第三案へ丸をつけた。

別れの場所は、いつも戦闘後に寄った二十四時間営業の定食屋だった。

万丈は悪の幹部服のまま鯖味噌定食を食べ、日和は変身解除を忘れ、肩の発光装甲で隣席を眩しくしていた。

「来週の世界征服作戦、僕が総指揮です」

「阻止班長は私」

「手加減は?」

「始末書を書くの、私なんだけど」

「では本気で」

「それが一番困る」

日和は〈恋愛関係解消届〉を広げた。

解消理由の欄には、性格の不一致、価値観の相違、その他、とある。

万丈は〈その他〉へ書いた。

〈部下六十三名と市民百八十万人の生活を守るため〉

「大げさ」

「悪の幹部ですから」

「最後くらい普通にして」

「普通なら、別れたくない」

二人は黙った。

定食屋のテレビでは、翌週の決戦を宣伝していた。

〈宿命の敵、ついに激突!〉

日和が判を押す。

万丈も押す。

重なった二つの印は、少しだけずれた。

決戦の日、万丈は高層塔の上で叫んだ。

「波切日和! 今日こそ永遠の敵となろう!」

観客と部下たちが沸いた。

日和は必殺光線の構えを取り、小声で返した。

「さようなら、万丈」

「さようなら、日和」

光線は計画どおり装置だけを破壊した。

暗黒福利会は撤退し、市民防衛庁は勝利を発表した。

恋愛関係解消届は受理された。

敵対関係のほうは、制度上、解消できなかった。

それから二人は毎週のように戦った。

互いの弱点を誰より知りながら、二度とそこだけは狙わなかった。