断頭台の新人研修

処刑人見習いのポルカは、初勤務から運が悪かった。

新人研修票には、執行時刻、刃の角度、観衆の反応まで記入欄がある。失敗一件で見習い期間は半年延長。王都処刑局は、人の命より書類の空欄を嫌う役所だった。

「安全確認よし。拘束よし。刃の欠損なし」

教本どおりに指差し確認し、断頭台の縄を握る。罪人台に寝かされているのは、庭師の老人ベグナール。王妃の薔薇を枯らした罪だという。

ただし本当は、王妃が毒入り香水を薔薇へ捨てたせいだった。

ベグナールは枯れた花弁と香水瓶を証拠として提出した。返ってきたのは受領印ではなく逮捕状である。瓶は王妃付き侍女が回収し、花弁は「不衛生」と焼かれた。

「お嬢ちゃん、肩に力が入りすぎだ」

「罪人は助言しないでください!」

「腰を落としたほうが、縄を引きやすい」

見物席から笑いが起きた。監督官ミュゼットが咳払いする。

「罪人との私語、減点一。姿勢指導を受けたこと、減点二」

ポルカは泣きそうになりながら研修票へ印をつけた。ベグナールは頬を台へ載せたまま、「字はきれいだ」と小声で褒めた。

「執行!」

ポルカは腰を落とし、縄を引いた。

刃が落ちる。重い音。だが首は落ちなかった。

断頭刃はベグナールの首に触れた位置で止まり、中央から弓なりに反っていた。老人は頬を台につけたまま、まばたきしただけだ。

「整備不良ね」

監督官は即座に言い切った。備品係が青ざめる。

「予備の魔鋼刃を。王族反逆者用のものよ」

交換作業は三分四十秒。ポルカは教本の余白へ記録した。魔鋼刃には赤い術式が走り、落下速度は通常の三倍になる。

「今度こそ、執行!」

縄を引く。

轟音とともに断頭台の土台が沈み、木屑が舞った。前列の貴族たちが扇で顔を覆う。

埃が落ち着く。

ベグナールは、さっきと同じ向きに頬をつけていた。

「お嬢ちゃん。今の腰の使い方はよかった」

ポルカは返事ができない。

監督官はなおも「刃の規格が」と言いかけたが、備品係が震える指で魔鋼刃を示した。

刃には、首へ触れた一点から放射状の亀裂が広がっている。

教本の「異常時対応」には、罪人が無傷の場合など載っていなかった。

ポルカは研修票の最後にある《執行不能理由》を見た。設備故障、天候、恩赦、暴動。そのどれにも丸をつけず、余白へ丁寧に書く。

《罪人の首が刃より硬い》

次の瞬間、王族用の魔鋼刃は細かな破片になって砕けた。