既読をつけるまで
【女子会(4)】
麻琴:金曜、駅前のビストロどう?
栞里:行きたい! 予約しよ
葉月:二十時ならいける
麻琴:香澄は?
香澄は、通知の文面だけを見てスマホを伏せた。
給料日まで六日。ビストロのコースは三千八百円。飲み物を一杯頼めば、交通費も含めて五千円近い。口座には家賃引き落とし後の残りが四千七百六十円しかない。
断ればいい。それだけなのに、「今月ちょっと厳しくて」と書くと、生活まで採点される気がした。先月買ったワンピース、予定外の歯医者、残業帰りのタクシー。何に使ったか説明しなければ、だらしない人に見えるだろうか。
冷蔵庫から、昨日の焼きそばを出す。麺は四角く固まり、キャベツの端が乾いていた。電子レンジで二分。温め終わるまでの表示を見ながら、香澄はグループ画面を開いた。
未読は十一件になっていた。
栞里:香澄忙しいかな
麻琴:とりあえず三人で押さえる?
葉月:あとから増やせる店にしよ
みんなは責めていない。責めているのは、返事をしないまま勝手に肩身を狭くしている自分だった。
レンジが鳴る。香澄は焼きそばを混ぜた。中心だけ熱く、端はまだ冷たい。
「今月ほんとに余裕なくて、今回はやめとく。給料出たらお茶だけ付き合って」
送信したあと、すぐに機内モードにしたくなった。けれど、その前に既読が三つついた。
麻琴:了解! お茶しよ
栞里:私も今月カード請求やばい笑
葉月:来週、会社近くの百円ソフト行かない?
香澄は拍子抜けして、冷たいままの麺を口に入れた。おいしくはない。でも、さっきより喉を通った。
栞里から個別に写真が届いた。食パンにマヨネーズで土手を作り、卵を落として焼いたもの。
「給料日前の最強メニュー。焦がしたけど」
香澄は笑って、焼きそばの皿を撮った。照明も整えず、乾いたキャベツもそのまま写した。
「こっちは昨日の再放送」
返信すると、ハートが一つ返ってきた。
金曜の予定は空いたままだ。残高も変わらない。それでも、断ったことで友達まで失うわけではなかった。香澄はもう一度レンジに皿を入れ、今度は一分だけ追加した。
皿を取り出すと、今度は端まで温かかった。香澄は「また今度」を、断り文句ではなく本当に次の予定として受け取った。金曜の夜は空白ではなく、使わずに残した時間になった。