明日なら嘘ではない

久遠寺黎は、空の金庫を見つめたまま言った。

「明日の正午、私はこの金庫を開ける」

鴨志田瑞季が眉をひそめる。

二人の前には、扉の開いた金庫と一本の鍵。壁の規則は一行だった。

〈一人一文を発し、その場で嘘と判定された者を処刑する。最後に残った一名を解放する〉

瑞季は先に「鍵は金庫の中にある」と言っていた。金庫の奥に銀色の光が見えたからだ。だがそれは鏡に映った、卓上の鍵だった。

〈虚偽〉

彼女の首輪が赤く光る。まだ作動まで三十秒の猶予がある。

「あなたの文だって嘘よ。明日ここへ戻れるはずがない」

「戻れないかもしれない。でも、今はまだ決まっていない」

嘘とは、発言時点で偽だと分かる内容を、偽と知りながら述べることだ。未来の出来事は未確定である。黎が明日生きている可能性も、主催者が証拠品として金庫を移す可能性も、完全にはゼロでない。

判定装置は彼の文へ黄色い表示を出した。未来予測用の時計が高速で回り、犯罪記録、交通網、金庫の移送予定まで照合する。それでも明日の一瞬を完全には固定できない。

〈真偽未確定。虚偽判定不能〉

『未確定は真実ではありません』と主催者。

「規則は、真実だけを残すとは言っていない。嘘と判定された者を処刑すると書いてある」

瑞季の首輪が締まり始める。黎は卓上の鍵を取り、彼女の首輪の点検穴へ差し込んだ。形が合う。主催者は、金庫の鍵だと思わせるため同じ銀色にしたが、実際には救命用の解除キーだった。

首輪が外れる。

〈処刑対象消失〉

二人とも立っている。最後の一名は決まらない。装置は規則上ラウンドを終了できず、安全扉を開いた。

瑞季が荒い息で尋ねる。

「明日、本当に金庫を開けるの?」

黎は銀の鍵をポケットへ入れた。

「それは明日決める。今ここで決めなくていいことまで、真実にする必要はない」

主催者は未来を脅しに使った。黎は未来を、判定から逃げる空白に変えた。