最弱守衛と紅蓮竜

火口村の門番ヨルネは、村で一番弱い男と呼ばれていた。

剣は振れない。魔法も使えない。毎朝、古い門の蝶番へ油を差し、夜には閂を下ろす。それだけで給金をもらう役立たずだと、若い狩人たちは笑った。

紅蓮竜ベルゴスが空を覆った日も、彼らはヨルネを置いて逃げた。避難鐘が鳴り、荷車が坂道で横転する。最後まで門に残ったのは、足の悪い老人と、鐘楼に登ったまま降りられない子供だけだった。

「門を開けろ、人間。山の向こうまで焼かれたくなければな」

ヨルネは門の前に立ち、両手で一本の閂を押さえた。

「この門は、日没までは閉門です」

竜は意味を理解できず、次いで侮辱されたと理解した。赤い息が村道を埋める。家々の窓が震え、門前の石が泡立った。

炎の中で、ヨルネは閂を押さえたままだった。

煙が晴れても、足の幅さえ変わっていない。彼の背後では、門の木材も、吊るされた小さな入村札も無傷だった。

ベルゴスは鼻を鳴らした。

「貴様だけではないのか」

そこで竜は気づく。炎が男を避けたのではない。男の背後にあるものすべてへ届かなくなっていた。門、家、井戸、逃げ遅れた老人。ヨルネが守ると決めた範囲だけ、熱という理屈から切り離されている。

彼が門番になって十七年、門を破られたことは一度もない。盗賊も洪水も土砂崩れも、村人は偶然だと思っていた。ヨルネ自身も、守ることしかできない力を強さと呼んだことがなかった。

「小細工を!」

ベルゴスは胸の奥の第二火嚢を開いた。紅蓮が黒へ変わる。城塞を地盤ごと焼く《深層炎》が、門前へ叩きつけられた。

轟音のあと、煙が割れる。

ヨルネはやはり両手で閂を押さえていた。背後から子供の声がする。

「ヨルネさん、日没だよ」

「そうか。なら、そろそろ開けよう」

彼が閂を持ち上げると、ベルゴスは初めて焦った。門が開けば、男は前へ出てくる。守るために動かなかっただけで、動けなかったのではない。

竜は黒曜石の槍を尾で構え、突進した。穂先はヨルネの胸へ正確に当たった。

門番の服には皺一つ増えず、黒曜槍だけが根元まで砕けた。