最後にほどける結び目

索具係フェイラの仕事は、峡谷へ縄橋を架けることだった。

「渡った後はただの紐だ」

斧戦士ドランが笑い、戦果盤に浮いた1%を指で弾いた。討伐相手は橋の向こうに棲む双角巨人。攻撃に加われないフェイラは、報酬を受け取る資格すらないという。

巨人が現れると、隊は橋を背にして戦った。フェイラだけは橋の杭を見つめ、縄の震えを指先で数えていた。

「下がって」

「まだ勝てる!」

ドランが斧を振り上げた瞬間、巨人の角が盾列を吹き飛ばした。フェイラは腰の細縄を強く引く。橋の横綱がたわみ、倒れた仲間を受け止めた。

全員が橋へ逃げ込む。巨人も追ってきた。

「橋を切れ!」

「今はだめ」

フェイラは結び目へ触れながら後退した。縄橋には切断用の刃など仕込まれていない。代わりに、荷重が人の歩幅なら締まり、巨人の歩幅なら順番に緩む結び方が施されていた。

巨人が中央へ踏み出すたび、橋の下で結び目がひとつずつほどける。それでも橋は落ちない。怪物が引き返さぬよう、最後の結び目だけが全重量を支えていた。

フェイラは全員が岸へ着いたことを確かめ、その結び目を指で押した。

縄橋は音もなく裏返った。

双角巨人が峡谷へ落ちる。落下の途中、岩壁に角を挟まれ、身動きできなくなった。ドランたちは岸から武器を投げるだけで核を砕けた。

報告では、ドランの「大胆な誘導作戦」になった。フェイラは切れた縄を巻き直し、何も言わなかった。

だが戦果盤が縄に残った魔力圧を読み取る。仲間を受け止めた張力、巨人だけを中央へ導いた緩み、最後まで橋を保った結び目。そのすべてがフェイラの指紋へ重なった。

ドランが「縄が勝手にほどけただけだ」と叫ぶ。

フェイラは巻き終えた縄を彼の前へ置いた。

「では、同じ結び方をしてください」

誰も手を伸ばせないまま、戦果盤が更新された。

ギルド長が新しい討伐隊の指揮綱を差し出す。フェイラはそれをドランの腰ではなく、自分の手首へ結んだ。ほどけない結び方だった。峡谷で大声を上げた斧戦士は、今度は彼女が引く綱の後ろへ黙って立った。

【再算定完了】

【フェイラ・討伐寄与率:1% → 97%】

【隊内順位:最下位 → 首位】

【役職更新:索具係 → 地形討伐長】