月曜の小さなカーネーション

コールセンターの月曜は、朝から声が乾く。

椎谷静葉がロッカーを開けると、赤いミニカーネーションが一本、名札の横に挿してあった。翌週も、その次も同じだった。水の入った細い管には、送り主の代わりに小さな折り鶴が巻かれている。月曜が来るたび、鶴だけが一羽ずつ増えた。

最初の週、同僚たちは恋人からだと騒いだ。静葉は笑って否定したが、花をロッカーへ戻す気にもなれず、卓上のペン立てへ挿した。受電ランプが一斉に赤くなるたび、視界の端の小さな赤が「一件ずつでいい」と言っているようだった。

ロッカー室へ入れるのは社員だけだ。候補は、母親の看病で一週間休んだ班長の篠宮、花好きの食堂担当・御厨、夜間巡回をする警備員の小田切。

静葉は水管に印字された病院名を見つけた。折り鶴の折り方は、羽の先を内側へしまう独特なもの。そして花が置かれるのは、篠宮が日曜の夜に翌週のシフト表を入れ替えたあとだった。

昼休み、静葉は篠宮の机へ折り鶴を置いた。

「お母さま、退院されたんですね」

篠宮はしばらく黙り、やがて眼鏡を外した。

休んでいる間、静葉は班長代理を引き受け、苦情の多い時間帯まで一人で埋めた。最終日には声が出なくなり、筆談で引き継ぎをした。それでも篠宮の復帰席には、休んだ理由を尋ねるメモを一枚も残さなかった。復帰した篠宮が礼を言おうとすると、静葉は「休んだ人がお礼を言うと、休むことが借金みたいになりますよ」と笑ったという。

その言葉に救われた一方で、何も返せないことが苦しかった。母親が退院時にもらった花を一本分けてもらい、翌週からは病院近くの店で同じ花を買った。折り鶴は母親が折った。

「名乗ったら、あなたはまた『気にしないで』と言うでしょう」

「言います。でも、受け取らないとは言ってません」

午後の勤務前、篠宮は食堂で卵サンドを二つ買ってきた。

静葉はカーネーションを二人の間に置き、ひと口食べる。

「では今週も、借金なしでいきましょう」