朝礼にいた採用エージェント
月曜のオンライン朝礼に、「Auto Memo」という参加者がいた。
部長は議事録作成用のボットだと言った。だがそのタイルには、時々、誰かが息を呑むような雑音が入った。
朝礼の議題は、若手社員の異動だった。
部長は、本人が転職活動を始めたため重要案件から外すと発表した。若手社員は驚いて否定したが、部長は一通のメールを読み上げた。
《他社での可能性を検討したい》
「会社への忠誠心に欠ける。来月の昇格推薦も取り下げる」
画面の何人かが目を伏せた。
私は総務として参加者一覧を確認した。Auto Memoのメールアドレスは、議事録サービスではなく人材紹介会社のドメインだった。
「このボット、外部の採用エージェントです」
部長は笑った。
「表示の不具合だろう」
私は会議の招待履歴を開いた。部長が日曜深夜に朝礼リンクを転送している。CCには若手社員ではなく、人材紹介会社の担当者が入っていた。
Auto Memoが無言のままファイルを一つ共有した。若手社員の経歴書だった。ただし作成者欄は部長、更新時刻は昨日二十二時四十一分。本人が転職活動に使ったとされた文面も、部長のアカウントから入力されている。
部長は「引き留め条件を調べるための模擬資料だ」と言い換えた。
若手社員がチャット欄に、件のメールの原文を貼った。
宛先は部長。内容は《社内公募で、他部署での可能性を検討したい》だった。部長は「他部署」を削り、外部転職の証拠に仕立てていた。
採用エージェントが初めて話した。
「部長から、昇格前の社員を安く紹介できると依頼されました。紹介料は部長個人のコンサル口座へ、と」
請求書の共有リンクには、部長のアクセス履歴が残っていた。
しかもAuto Memoは今朝だけの参加者ではなかった。過去三か月の朝礼ログにも同じ外部アドレスがあり、部長が評価を下げた社員の名前だけ、翌週にはその紹介会社の候補者一覧へ載っている。会議の録音が、転職を勧めるための営業資料に使われていた。
役員が朝礼資料を閉じた。
「異動と推薦取消を撤回する」
若手社員の顔が上がる。
「代わりに、部長を全案件から外す。発令はこの朝礼をもって有効とする」