柱のない十八歩
王都中央市場の建て替えは、一本の条件で行き詰まっていた。
「中央に柱を立てるな」
巨大な荷車が通るため、十八歩の幅を空けなければならない。だが梁だけでは自重でたわみ、名のある棟梁たちは十歩が限界だと辞退した。無名の設計士リュシェンが図面を出すと、審査役は笑った。
「木を三角に組む? 子どもの玩具だ」
「その玩具に、麦袋を載せてください」
リュシェンは同じ量の木材で二つの模型を作った。一つは太い横梁。もう一つは細い材を三角形に連ねたトラス。広場に実寸の一組も組み上げ、両端だけを石台に載せた。
まず横梁に麦袋を積む。四十袋で中央が指三本下がり、六十袋で亀裂が走った。
次に三角の梁へ積んだ。六十、八十、百。縄で測った中央の高さは変わらない。最後に審査役自身が上へ乗り、職人十人がぶら下がっても、三角は形を崩さなかった。
翌朝、その一組を市場の入口へ据えた。十八歩の空間を柱なしで跨ぎ、四台の荷車が並んで通った。日差しを遮る屋根布まで張っても、梁のたわみは銀貨一枚の厚さ以下だった。
競合の棟梁は、使った木材を数え直した。従来案より三割少ない。工期も半分だった。
審査役が推していた案は、森で最も太い樫を一本切り出すものだった。運搬に牛二十頭、乾燥に一年。それでも十八歩を跨げる保証はない。リュシェンの三角梁は、普通の材を同じ長さに切って組むため、町の工房だけで作れた。
荷重試験のあと、彼は接合部の木栓を一本抜かせ、傷んだ部材だけを交換してみせた。所要時間は十二分。巨大梁なら亀裂一つで全交換になる。市場の商人たちは中央の柱が消えた床へ屋台の縄を引き、従来案より二十八店多く入ると数えた。増える年間賃料は、屋根の建築費を一季で上回った。
審査役が梁の下で杖を振っても、頭上から落ちた木屑は一片もなかった。
市場長は保留札を引き裂き、十二棟分の発注札をリュシェンの図面へ重ねた。
「中央市場の屋根は全部これだ。設計料は言い値で払う。今日から王都公認の大棟梁を名乗れ」