梅干しの場所
高校の昼休み、瑞葉は弁当箱の中央にある梅干しを最後まで残す。
白いご飯の真ん中に赤い一粒。祖母は毎朝、日の丸みたいに置いた。周りのご飯が酸っぱくなるのが嫌で、瑞葉は端から食べ進め、最後に梅干しだけを一口で飲み込む。
その日、隣の席の転校生、紫乃が弁当を忘れた。購買のパンは売り切れ、財布には小銭しかないという。
「少し食べる?」
瑞葉が箱を机の間へ置くと、紫乃は遠慮しながら卵焼きを一つ取った。
「甘い」
「うちは砂糖が多いから」
次に蓮根のきんぴら、唐揚げを半分。二人で食べると、いつもの弁当が小さく見える。
紫乃は梅干しを指した。
「それ、食べないの?」
「最後に我慢して食べる」
「好きじゃないなら、もらっていい?」
紫乃は梅干しをご飯ごと箸で取り、嬉しそうに頬張った。酸っぱそうに目を細め、それでも笑う。
「前の家の庭に梅の木があったの。母と毎年漬けてた」
転校の理由も、前の町のことも、瑞葉はまだ聞いていなかった。けれど紫乃の声から、日当たりのよい庭と、干された梅の匂いが浮かんだ。
放課後、瑞葉は祖母に「明日は梅干しを端へ置いて」と頼んだ。
「真ん中じゃなくていいのかい」
「半分にしやすいところ」
翌日の弁当には、梅干しが右上に二つ並んでいた。祖母なりの解釈らしい。昼休み、紫乃は自分で買ったパンを持っていたが、二人は梅干しを一つずつ食べた。
教室に酸っぱい香りが広がる。瑞葉の一粒は昨日ほど苦手ではなかった。種を包んだティッシュを並べると、赤い実の温度だけが、ご飯の上に丸く残っていた。
それから二人は、ときどきおかずを交換した。紫乃の家の弁当には、甘い豆や薄焼き卵が入っていた。瑞葉は梅干しの代わりにそれをもらう。違う家の匂いが同じ机に並び、午後の教科書へわずかに移る。梅の種だけは、毎日二つ、ティッシュの中で隣り合った。
家へ戻ると、祖母が新しい梅の瓶を日に当てていた。蓋を開けた途端、教室より濃い酸味が鼻をくすぐる。瑞葉は明日の二粒を自分で選び、なるべく同じ大きさのものを弁当箱の端へ並べた。