欠席者の卒業式

浦代晃平は、卒業式の日を欠席した。

学校の危機管理AIは、重大な未解決事案がある卒業日を保存点へ戻す制度だった。誰が記憶保持者になるかは選べず、その日は晃平だった。

制服を着るところまではできた。だが玄関で靴を履くと息が詰まり、二階の自室へ戻った。午後四時、学校から「卒業おめでとう」と一斉通知が届き、眠りに落ちた。

目覚めると、また卒業式の朝だった。

最初の十回は好都合だった。母に腹痛を訴え、布団の中で動画を見た。どうせ明日も同じ日なら、出席する意味はない。

百回目には、部屋の壁紙の継ぎ目をすべて覚えた。千回目には、母が午前十一時二分に台所でため息をつくこと、父が昼休みに「行けそうか」と短いメッセージを送ること、クラスのグループチャットで答辞係の女子の失敗動画が拡散されることまで知っていた。

その女子は式の答辞で言葉を詰まらせ、笑われたらしい。晃平は一度も彼女と話したことがなかった。だが毎回、午後一時十七分に動画が届き、彼女が唇を噛む瞬間を見た。

ある日、晃平は式へ行った。体育館の扉に手をかけた途端、視線が刺さり、逃げ帰った。次の日も、その次の日も同じだった。

ループの中で、晃平だけが老いた。鏡の顔は十八歳のままだが、心は何十年も欠席を繰り返していた。やがて自分を救うことに飽きた。

六千三百二十一回目、彼は体育館の最後列に座った。名前を呼ばれても返事をせず、証書も取りに行かなかった。ただ答辞が始まると、答辞係の女子のほうを見た。

彼女はやはり言葉を詰まらせた。前列で笑い声が漏れ、教師が困った顔をした。

晃平は立ち上がり、拍手した。

一人きりの、場違いな拍手だった。答辞係の女子が顔を上げた。次いで母親席から誰かが拍手し、教師が続き、体育館全体へ広がった。彼女は泣きながら最後まで読み切った。

午後四時を過ぎても、朝には戻らなかった。

晃平は卒業証書を受け取らなかった。だが帰り道、答辞係だった彼女から「助かった」と言われた。彼は正直に答えた。

「僕も、今日やっと出席した」

数年後、晃平は通信制高校の相談員になった。生徒を無理に教室へ戻そうとはしない。扉の外に椅子を置き、隣に座る。

出席とは、決められた場所にいることではない。誰かが立ち止まった瞬間に、見ていると伝えることだと知っているからだ。