止まった三秒の外側
「時止め騎士にソロで近づけるわけない」
「敵意を持った瞬間、三秒停止。回避不能」
「朝比奈澪の配信スキル、戦闘向きじゃないだろ」
朝比奈澪は、配信画面の隅にある小さな自分の姿を指で確かめた。
彼女の固有スキル《画面交代》は、一配信につき一度だけ、現実の自分と配信内の自分を入れ替える。便利なのは衣装直し程度。そう評価されてきた。
時告げの騎士クロノスが剣を抜く。
白い甲冑の胸には、時計盤の核。そこへ攻撃しようと考えただけで、周囲の時間が三秒止まり、その間に首を刎ねられる。床には、挑戦者の武器だけが何十本も残っていた。
澪は敵意を消したまま騎士の背後を通り、短剣を時計盤と同じ高さへ構えた。その姿を遅延映像へ残してから正面へ戻り、一度だけ《三秒後に画面交代》の予約ボタンを押す。予約はダンジョン内ではなく、時間停止の影響を受けない配信サーバーで進む。
「真正面はだめ!」
「もう時止め入る」
「画面、固まっ――」
音が消えた。画面内では、澪の髪だけが三秒前の風に揺れている。現実と配信が別々の時計を持つことを、彼女は雑談配信の通信事故で知り、それ以来この一瞬のために遅延を固定してきた。
舞っていた埃が空中で止まり、コメントの流れだけが配信の外側を滑っていく。クロノスが澪へ歩み、長剣をまっすぐ突き出した。
剣先が喉へ触れる寸前。
止まっていないものが、もう一つあった。三秒遅延で送られている、配信画面の中の澪だ。そこでは三秒前の彼女が騎士の背後に立ち、短剣を時計盤と同じ高さへ構えている。
停止した澪は指一本動かさない。
だが配信サーバーの予約時計が、ちょうど三秒を数え終えた。
現実と映像が入れ替わる。
剣に貫かれたのは遅延映像の残像。三秒前の澪が立っていた背後へ、本物の澪が移り、構えていた短剣がそのまま時計盤の核へ収まった。
時が戻る。
クロノスは一歩も振り向けず、全身の針を逆回転させて砕けた。
「三秒遅延を退避場所にしたのか」
「攻撃じゃない。ボタン一回で、構えた刃の位置だけ変えた」
「ログ上、時停止中に動いた判定ゼロだ!」
澪が息を吐くと、右上の同時視聴者数が桁を一つ増やした。
【1,000,003人が視聴中】