死者は燃えるごみではありません
王都葬送院の分別係フィルネラは、死者を袋の色で呼ばなかった。
骨、遺品、呪具、埋葬用布。扱いは分けても、そこにいた人までごみにしてはいけないと思っていたからだ。
彼女の技能は、院長に便利なだけの能力と評されていた。戦場から届く袋を早く空にできる、それだけだと。
【分別清掃:同じ場所へ不適切に混ぜられたものを、性質ごとの正しい区分へ戻す。】
ある夜、墓地の中央で地面が裂けた。
戦死者百人分の骨と魂を縫い合わせた《百貌屍兵》が這い出したのだ。胸には泣く顔、背には怒る顔、腕には助けを求める顔。討伐隊が斬るほど骨は別の場所へつながり、聖火を浴びせれば百人の悲鳴が一度に響いた。
院長は震えながら叫んだ。
「まとめて焼け! アンデッドは燃えるごみだ!」
フィルネラは火種を持つ兵の前へ立った。
「違います。混ざっているだけです」
「何を言っている!」
百貌屍兵の腕が振り下ろされる。彼女は避けず、その掌へ分別札を貼った。
技能が対象を検索する。
骨。鎧。縫合糸。支配呪術。そして、帰る墓を奪われた百の魂。
どれも本来の区分が違う。
フィルネラが左右の手を開くと、巨体に無数の線が走った。骨は骨箱へ、鎧は遺品台へ、呪術は封印壺へ。絡み合っていた魂は淡い灯になり、それぞれ名前の刻まれた墓標の前へ浮かんだ。
最後に残ったのは、掌ほどの黒い釘一本だった。百人を縫い合わせていた死霊術師の呪具だ。
彼女はそれだけを赤い危険物袋へ落とした。百の灯は墓標へ触れる前、一度ずつフィルネラの前で揺れた。礼をする者、家族の名を囁く者、ただ安堵して消える者。彼女は一人ずつ埋葬札の読みを確かめ、正しい墓へ送り届けた。
墓地に静けさが戻る。
討伐隊長は剣を下ろし、隊員全員へ敬礼を命じた。院長は「そんな分け方が」と口を開けたまま立ち尽くした。フィルネラは百枚の埋葬札を整え、いつもの声で告げた。
「死者は燃えるごみではありません。お名前のある、お預かりものです」
分別台の認証板が白く輝き、彼女の職名だけを新しい区分へ移した。
【職業「葬送院分別係」が上位職「魂籍分離官」へ書き換えられました】