残りものの弁当

桃ノ木田慧吾の弁当には、前夜の煮物がよく入っていた。

形の不ぞろいな野菜、端を巻いた卵焼き。鹿島田亮多は自分の購買弁当を見せつけた。

「毎日残りもの? うちは夕飯と弁当で同じ物なんて出ないけど」

慧吾は「食べられるから」と箸を進めた。

学校が新しい食堂業者を選ぶことになり、試食会が開かれた。亮多の父が経営する弁当会社も候補で、亮多は採用が決まったように振る舞った。

「桃ノ木田は安い定食ができたら嬉しいよな」

当日、審査員として大手食品グループの社長と有名ホテルの料理長が現れた。社長は慧吾を見ると、名前ではなく「開発主任」と呼んだ。

桃ノ木田家は、食品卸、外食、冷凍食品を全国展開する企業の創業家だった。慧吾は社長の長男で、規格外野菜や余剰食材を使う学校給食モデルを高校生チームと開発していた。家で残りものを食べるのも、廃棄を出さない家訓の一つだった。

試食台には、慧吾の弁当と同じ煮物をアレンジした定食が並ぶ。価格は従来の七割、栄養価は上。契約農家の収入も守れる仕組みだった。慧吾の家では、役員の食卓にも同じ規格外野菜を出し、豪華な会食の残りも翌日の社員食堂へ正規の衛生手順で回していた。だから慧吾の弁当だけが特別に質素なのではなく、社長一家全員が同じ方針で食べていた。

亮多は笑った。

「でも高級食材じゃない。うちのほうが見栄えはいい」

料理長は、亮多の父の弁当を一口食べて箸を置いた。

「こちらは昨夜の売れ残りを、表示を変えて出していますね」

搬入記録と冷蔵温度が一致せず、審査資格はその場で停止された。亮多の父は言葉を失う。

校長が新食堂の採用通知を読み上げた。受託者は桃ノ木田グループではなく、慧吾が中心となって作った地域農家の共同事業体だった。家の名前で独占せず、利益を生産者へ戻す契約になっている。

慧吾は最後の煮物を食べた。

「残りものって、捨てる理由じゃない。次に生かす材料だから」

採用印が押された瞬間、亮多が貧乏くさいと笑った弁当は、学校と農家を救う一番高価な一膳になった。