水底の売約済み
売れ残った魚には、値札が二度貼られる。
一枚目は種類と値段。
二枚目は値下げの赤い札。
わたしは背びれの曲がったコリドラスで、赤い札を三度貼り替えられた。仲間は次々と透明な袋に入り、明るい家へ運ばれていった。
木曜日になると、一人の少年が来た。
彼は派手な魚を見ず、わたしたちの水槽の前へしゃがんだ。
「まだ水、できてない」
店主へ毎回そう言った。水ができるとは何だろう。人間の水は、蛇口をひねればすぐ出るのに。
少年は底砂の種類を聞き、水温を聞き、水を安全に保つ仕組みをノートへ書いた。少ない小遣いで、ろ過器、砂、試薬を一つずつ買った。魚だけは買わなかった。
ほかの客は、少年に安い小瓶で飼えばいいと言った。店主は首を振った。
「待てるなら、待ったほうがいい。魚は買った日からじゃなく、迎える前から飼い始めるんだ」
少年はうなずいた。
わたしは、選ばれない理由を知っていた。背びれが曲がり、泳ぎも不格好だ。少年が長く見るのは、哀れんでいるからだと思った。
ある木曜日、店の扉に〈今月末閉店〉の紙が貼られた。
水槽は急に空いていった。わたしたち六匹だけが残った。店主は別の店へ移す相談をしていたが、わたしはもう何度も網を避け、知らない水へ移されるのに疲れていた。
閉店前日、少年が駆け込んできた。手には透明な瓶があり、水が入っている。
「測ってください」
店主が試薬を落とし、色を見て笑った。
「合格。よく待ったな」
少年はわたしではなく、六匹全員を指さした。
「この子たち、お願いします」
「曲がったのもいるぞ」
「知ってます。ずっと見てました。曲がってるから見てたんじゃありません」
初めて袋へ入ったとき、赤い札は外され、水槽には〈売約済み〉の紙が貼られた。値段ではない言葉が、自分の上にあるのを見た。
少年の家の水は、まだ魚の匂いがしなかった。けれど砂はやわらかく、隠れる流木があり、六匹で並べる広さがあった。
少年はわたしを「砂時計」と呼んだ。底を行き来するたび、一日が進む気がするからだという。
わたしは売れ残っていたのではなかった。
彼の水が、わたしたちを迎えられる日まで待っていた。
少年もまた、急いで飼い主になるのではなく、命を待てる人になる時間を泳いでいたのだ。