河原の石に名前をつける
水鏡佳苗と菅生理恵は、中学の帰り道によく河原へ寄った。
三十年たった今も、実家へ戻ると同じ堤防を歩く。昔あった駄菓子屋はなくなり、橋は新しくなったが、川の曲がり方はほとんど変わらない。
秋の午後、二人はコンビニの肉まんを持って河原へ下りた。
「座るところ、昔より石だらけじゃない?」
「昔は地面が柔らかかったんじゃなくて、私たちのお尻が若かった」
理恵が平たい石を選び、佳苗は笑いながら隣へ座った。
肉まんの紙を開くと、白い湯気と胡椒の匂いが冷たい風へ上がった。
二人は川を見ながら、最近買った枕の高さ、老眼鏡を作るかどうか、スーパーの焼き芋が去年より小さいことを話した。
「もっと大人っぽい話、ないのかな」
「介護保険?」
「急に現実的すぎる」
佳苗は足元の丸い石を拾った。
「これ、校長先生に似てる」
「どこが」
「つるっとして、何考えてるか分からない」
そこから二人は、石へ勝手に名前をつけ始めた。
細長いものは〈駅前の信号〉、穴の開いたものは〈二年三組の黒板消し〉、赤い筋のあるものは〈理恵が初めて染めた前髪〉。
「それ、失敗したやつ」
「翌日、先生に三度見された」
「佳苗は笑いすぎて廊下に立たされた」
思い出は、話すたび少し形が変わった。
どちらが先に笑ったか。先生は三度見か二度見か。正確でなくても困らない。
佳苗は一番丸い石を川へ投げた。水面を一度だけ跳ね、沈む。
「下手になった」
「昔から一回だったよ」
「記憶の中では五回」
「じゃあ五回でいい」
日が傾き、川面が銀色になった。
理恵は残った肉まんの紙を小さく折り、ポケットへ入れた。
「来年もここ来る?」
「別に約束しなくても、帰ってきたら来るでしょう」
「それもそう」
二人は立ち上がり、座っていた石へ手を置いた。日差しを吸って、少しだけ温かい。
堤防へ戻る途中、枯れ草が靴へ触れた。
コートには肉まんの蒸した皮と川風の匂いが残っている。
何か特別なことをしなくても、同じ場所で同じような話をすると、年と年の間に小さな橋がかかった。
名前をつけた石は全部置いてきたが、二人の歩調だけは昔と同じ速さだった。