洗濯機は横にしない

圭吾と志弦が最後に口をきいたのは、継母の葬儀の日だった。圭吾の父と志弦の母が再婚して九年、母だけが先にいなくなった。父はその二年後、地方の施設へ移った。残った家を売ることになり、二人は荷物を分けるために呼ばれた。

問題は洗濯機だった。

「処分でいいだろ」と圭吾が言うと、志弦は首を振った。

「まだ動く。俺の部屋、洗濯機ない」

「四階、エレベーターなしだぞ」

「だから呼んだ」

軽トラックを借り、毛布で包み、二人で階段を下ろした。志弦は説明もなく先に進み、圭吾は背中側で重さを受けた。踊り場のたびにホースが揺れ、壁へぶつかりそうになる。

「横にするなよ」

「分かってる」

「前に冷蔵庫を横にして壊しただろ」

「あれは高校のときだ」

同じ家で暮らした九年間、二人は何度も物を壊した。ゲームのコントローラー、網戸、父のゴルフクラブ。どちらがやったかで揉め、最後には継母が直した。洗濯機の蓋には、その人が貼った〈糸くずフィルターは日曜〉というシールが残っていた。

志弦のアパートへ着くと、今度は四階まで上げる。三階の踊り場で圭吾の腕が震えた。

「置くぞ」

「ここで?」

「落とすよりましだ」

二人は洗濯機を挟んで座り込んだ。志弦が自販機で水を二本買ってきた。一本を圭吾の膝へ置く。

「家、売れた金、半分でいいから」

「親父の分は」

「施設代に残す」

「勝手に決めるな」

「じゃあ一緒に決めろ」

言い合いはそこで止めた。まだ一階分残っていた。

部屋に運び込み、給水ホースをつなぐ。試運転すると、古い機械は大きく揺れた。圭吾が脚の下へ薄い板を差し込み、志弦が水平器代わりに水の入ったコップを置いた。二人で何度も位置を直し、ようやく音が静かになった。

帰り際、志弦は洗面所の棚から白いタオルを一枚出した。

「これ、持ってけ。汗臭い」

「おまえのだろ」

「まだ段ボールに十二枚ある。母さん、買いすぎてたから」

圭吾は受け取った。端には、継母が縫った青い糸の印があった。昔、圭吾のタオルにつけられていた印と同じだった。

一週間後、家の売却について話すため圭吾が再び訪ねると、洗濯機の横に小さな籠が増えていた。中には青い印のタオルが一枚、きれいに畳まれている。志弦は何も言わず、圭吾の濡れた傘をその上のフックへ掛けた。