火の粉を止める土塁

炭焼きの里ヴァルドでは、乾いた季節になると窯の火の粉が斜面を飛び、茅葺き屋根を焦がした。住民は炭で暮らしている。だから窯を止めろとも言えず、毎晩、水桶を抱えて眠っていた。

赴任した書記官ガストンは、窯と家並みの間に湿った土塁を一本だけ築くことにした。

「火を消す壁です。炭焼きを追い出す壁ではありません」

課金表には、稼働する窯一基につき銀貨半枚とあった。使っていない窯、家庭用の小窯、炭を焼かない家には負担なし。土運び一日で銅貨八枚分、泥を練る半日で四枚分として、現金の代わりにできる。集金役と支出役は別人にし、夕刻ごとに残高を窯場の鐘へ吊るす。

窯主ドムは顔を赤くした。

「火事は村全体の災難だ。なぜ俺たちだけが払う」

ガストンは焦げた屋根板を一枚、机へ置いた。

「火の粉を生む仕事から費用を出す。ただし、あなた方を罰する額にはしない。窯一基が一冬に生む炭の、百袋に一袋分です」

数字が見えると、反論は弱くなった。さらに屋根を焼かれた仕立屋が、免除されているのに泥練りへ名を入れた。

「窯がなくなれば、冬に凍える。壁を造るほうがいい」

翌朝には窯主たちも土籠を担いだ。誰かが命じたのではない。自分たちの火を、自分たちの商いごと守るためだった。

四日目、徴収箱に予定より銀貨が多く入っていた。匿名の寄付だったが、ガストンは受け取らず、窯場に『持ち主は戻してください』と掲示した。余分な金で壁を大きくすれば、次は誰かが口を出す権利を買う。翌朝、ドムが気まずそうに銀貨を回収し、その代わりに窯二基分の土を運んだ。数字どおりの壁だからこそ、自分の壁だと思えたのだ。

土塁の表面には芝が張られ、頂には水を含ませる浅い溝が掘られた。最初の乾風の日、赤い火の粉が数十、家並みへ飛んだ。だが土塁へ触れた瞬間、湿った音を立てて黒くなった。

住民たちは水桶を持ったまま、しばらく動かなかった。やがて一人が桶を地面へ置き、次々に同じ音が続いた。

ドムは土塁の端へ炭文字の看板を立てた。

――火を使う者が、眠る家を守る。

その晩、里で初めて、水桶のない窓に灯がともった。