灰色染めの市場

ミオルザが染める布は、いつも灰色だった。

王都の衣料商会では、紅や金の外套が高値で売れる。灰色は内張りに隠され、客の目に触れない。そのため売上盤に記された彼女の寄与は5%。華やかな染色師を寵愛する店主は、灰色の桶を指さした。

「売れない色で水場を占領するな。祭礼色だけ残せ」

ミオルザは染料を掬う木杓子を置いた。灰色は地味にするための色ではない。魔獣が嗅ぎ取る魔力の揺らぎを布の内側で散らし、着る者の気配を石壁や霧へ馴染ませる色だった。外側がどれほど派手でも、内張りさえ灰色なら旅路では目立たない。

店主はその説明を「染め手の負け惜しみ」と切り捨て、内張りまで鮮烈な赤へ変えた。新作外套は陳列棚で輝き、注文票が積まれた。だが街道へ出た客は、遠くから魔獣に追われた。傷だらけで戻った者たちは外套を投げ返し、噂は市場を駆けた。

競合店の者が、灰色の端布を持って訪れる。

「この染め手を雇いたい。うちでは外套の表より、帰ってきた客の話を値札にする」

店主が追い払おうとしたとき、中央市場の《需要源泉幕》が空中に広がった。客が何を見て買ったかではなく、なぜ同じ店へ戻ったかを映す公正具だ。華美な布の光は途中で途切れ、灰色の内張りを着た冒険者だけが、素材売却や買い替えを繰り返していた。

「表地を作ったのは私の職人だ!」

店主の抗議に、幕は短く答えた。

《表地は欲望を呼んだ。灰色は客を帰した》

返品に来ていた客たちは、灰色の外套を床へ広げた。派手な表地は店ごとに違うのに、無事に帰った品にはすべて同じ灰色が隠れていた。店主が偶然だと言うたび、幕は生還者の購入履歴を重ね、言い逃れの余地を消した。華美な染色師たちも、自分の色が売れた土台をようやく見た。

ミオルザは競合店の契約書を閉じた。市場評議会が差し出したのは、どの店にも染色規格を命じられる徽章だったからだ。華やかな職人たちは、初めて彼女の桶へ頭を下げた。

傷だらけの冒険者たちは古い外套を裏返し、灰色の内張りに残るミオルザの染め印を見せた。派手な表地は擦れても、その灰色だけが魔力の匂いを散らし続けていた。客たちは新しい外套の注文書に、表の色より先に内張りの染め手を記す。店主が金色の見本を掲げても、誰も振り向かなかった。ミオルザは華やかな染色師を降格させず、彼らへ灰色を隠すのではなく組み合わせる技術を教える。ただし、店主の専用水場だけは共同桶へ変え、売れた色だけが偉いという札を壁から外した。

《真価確定:ミオルザ 実売上寄与95%》

《市場順位:末席→首位/役職:内張り染め係→王都染色監督官》