炎の中身だけをしまえ
港町の荷解き人ダグラムは、火事のたびに役立たずと罵られた。
彼の収納は、箱や樽を丸ごと入れられない。対象の「中身」だけを抜き取る奇妙なものだった。
【固有スキル《内容物収納》:接触した容器から、指定した内容物だけを一括格納する】
樽から水だけを抜けば容器が軽くなる。それだけなら手押しポンプの方が早い。組合長は給金を半分にし、倉庫の最も熱い炉前を押しつけた。
ダグラムはそこで、炉に入っているのが石炭だけではないと知った。扉を閉めても熱は鉄へ移り、床へ逃げ、空気を満たす。器とは箱の形をした物だけではなく、境界に囲まれた場所そのものではないか。彼の報告書は、学のない荷解き人の妄想として燃やされた。
夏至祭の夜、組合長が警備費を着服していた隙を突き、敵国の火船が港へ突っ込んだ。
油を吸った桟橋から炎が走り、穀物庫、孤児院、城門へ同時に燃え移る。消火隊の水は蒸気になり、結界師は熱気に近づけない。町を囲む防潮壁のせいで人々は逃げ場を失った。
組合長は帳簿だけ抱え、ダグラムに叫んだ。
「炉前係なら火に慣れているだろう。時間を稼げ!」
ダグラムは逃げる背中を見送った。
背後では、いつも水をくれた炉番の子どもたちが孤児院の窓を叩いている。ダグラムは焼けた掌を握り直した。港町は石壁という巨大な器だ。そこに満ちている内容物は、煙、炎、悲鳴。だが本当に人を焼いているものは一つだけだった。
彼は赤熱した城門へ手を置いた。
皮膚が焼ける直前、町全体を一個の容器として指定し、その中から「熱量」だけを選ぶ。
収納は一度。
炎は形を残したまま青白く固まり、すぐに霜となって崩れた。煮立っていた運河には薄氷が張り、焼け落ちるはずだった梁から冷たい雫が落ちる。住民たちは煤だらけの顔で、無傷の孤児院を見上げた。
空き枠には、港一つを焼き尽くす熱が赤い球となって眠っている。
組合長は帳簿を落とし、消火隊長は兜を脱いだ。町の鑑定塔が夜空へ文字を投げ上げる。
【職業が《荷解き人》から《熱量封蔵王》へ書き換わりました】