無傷表示は飾りではない

《HPバー固定の偽装だろ》

《攻撃を受けた瞬間だけ別映像にしてる》

《雪平澄、無傷キャラそろそろ苦しくない?》

雪平澄は、配信設定画面を開いたまま第九層へ入った。表示されているHPは一〇〇。特殊な桁も、隠しゲージもない。

以前、溶岩を歩いた回では回復演出を隠したと断定された。そこで今回は、受傷ログを管理局と医療院へ同時送信し、途中停止できない設定にしてある。

待ち受ける天眼獣は、見た相手の最大生命力をそのまま削り取る。防御も回避も無意味とされ、討伐隊は必ず視線を遮る装備を使う。

澄は目隠しを持ってこなかった。

「バーが動かない理由、今日は近くで見せるね」

天眼が開く。白い光がまっすぐ澄を貫き、背後の岩盤を円形に消し飛ばした。

彼女はその場に立っていた。

服の裾さえ焦げていない。澄は光の中へ手を差し入れ、掌を返した。それだけで天眼獣の照射が逆向きに折れ、巨大な瞳へ戻っていく。獣は自分の力を受け、音もなく灰になった。

HPは一〇〇のまま。

《今のノーカットだぞ》

《ダメージログが“0”じゃない。“対象外”になってる》

《生命力を削る攻撃なのに、生命判定そのものを拒否した?》

《反射スキルじゃない。光線が澄の手を境に所有者変更されてる》

澄は配信画面のHPバーを指でつつく。

「固定してるんじゃないよ。減らせるものだけ、ここに表示されるの」

コメント欄へ解析班の長文が流れた。装備、祝福、外部支援、いずれの反応もない。代わりに、天眼獣の権能登録から所有者名だけが消えていた。

《攻撃を受けないんじゃなく、受けた攻撃を自分のものにしてる》

《過去回の溶岩も毒霧も全部これか》

《偽装バー呼ばわりしてすみませんでした》

《無傷ではなく、被害という概念が届かない》

画面右側の疑惑検証タグが、運営の操作で灰色から金色へ変わる。

【耐久配信に関する不正疑惑:完全否定】

その直後、公式スキル図鑑に新しい一行が追加された。

【所有者:雪平澄/固有権能《万象収受》/測定上限なし】