焦げた鍋にも帰還印

雪山遠征の六日目、料理担当のレネは唯一の鍋を焦がした。

吹雪で薪が湿り、火力を上げすぎたのだ。底にこびりついた黒い粥を見て、腹を空かせた仲間たちは黙った。

食料は残り一日分。峠を越えるには二日かかる。

レネは幼い頃、領主家の厨房でスープを焦がし、その日のうちに解雇された。役に立たない者は温かい部屋に置かれない。それをよく知っている。

焦げた匂いは洞窟の天井にこもり、失敗を何度も鼻先へ戻した。レネは皆の器へ薄い部分だけをよそい、自分は黒い底を食べようとしたが、オズマが無言で鍋を取り上げた。怒って捨てるのだと思い、謝罪の言葉を十個も用意した。

けれど三人が口にしたのは責め言葉ではなく、残りの干し肉の枚数と、峠までの歩数だけだった。その冷静ささえ、役立たずを数から外した結果に見えてしまった。

「私は荷物を減らすため、ここで戻ります」

三人の腹が鳴るたび、レネは自分だけが吹雪より冷たい場所にいる気がした。

雪除けの洞窟を出ようとすると、重戦士オズマが大斧を横にして入口を塞いだ。

「一人で下山するほうが食料を使う」

精霊術師エノラは無言で焦げた鍋へ雪を入れ、指先の風で底を削り始めた。彼女が自分の術具を洗い物に使うのは初めてだった。

狩人シオンは吹雪の中へ消えた。

レネの胸が沈む。シオンだけは見切りをつけたのだと思った。

やがて彼は雪まみれで戻り、白兎を二羽、洞窟の奥へ置いた。さらに腰袋から小さな香辛料瓶を出す。

「祝いの日に使うつもりだった。今日、使え」

「何の祝い?」

「鍋が一度焦げたくらいで、誰も死ななかった祝い」

オズマは自分の毛皮をレネの肩へ掛け、入口の前から動かない。エノラは磨いた鍋の底に、四人の帰還印を炎で焼きつけた。

「次に焦げても、誰の鍋か分かるように」

レネは笑う代わりに鼻をすすり、兎肉を切った。シオンは隣で香草を刻み、オズマは薪を割り、エノラは火を弱く保つ。

湯気の向こうで、三人の器はレネの分が注がれるまで手を付けられずにいた。

夜半、薄いスープが四つの器に注がれた。

焦げ跡は消えなかったが、その鍋には四人分の帰る印が残った。