焼き上がりは家族の数だけ
家族の窯元へ戻った娘が作ったのは、持ち手のついた茶碗だった。
「茶碗に耳をつけるな」
父は一目で不合格を出した。
「手の力が弱い人でも持てるようにしたの」
「両手で包むのが茶碗だ」
「包めない人もいる」
祖母は最近、指が曲がり、湯呑みを二度落としていた。それでも父は、代々の形を変えたがらなかった。
「売れなければ意味がない」
「使えなければ、もっと意味がない」
娘は石膏型を使い、同じ厚さの器をいくつも試作した。父は、手で挽かない器は工芸ではないと言った。
祖母の誕生日、家族五人分の茶碗を作ることになった。
父は寸分違わない五客を挽いた。
娘は、祖母用だけ持ち手と滑り止めをつけた。
窯出しの日、父の茶碗は美しく揃っていた。娘の器は持ち手の付け根が少し歪み、釉薬も流れている。
「失敗だ」
父が言うと、祖母が歪んだ茶碗を取った。
片手を持ち手へ入れ、もう片方を底へ添える。震えても落ちなかった。
「これなら、熱いお茶を自分で飲める」
祖母は最初の一口を、ゆっくり飲んだ。
父は何も言わなかった。
翌月、近所の介護施設から注文が来た。持ち手の大きさも、重さも、人によって違う。娘は一人ずつ手を測り、父は口当たりを薄く削った。
「型を使ったら全部同じになると思ってた」
「同じ土台から、使う人に合わせて変えるの」
「家族みたいな言い方をするな」
「父さんが先に言いそうなことだった」
二人は作業台を半分ずつ使った。その夜、父は揃いの茶碗ではなく、娘の試作品で酒を飲んだ。持ち手は邪魔そうだったが、最後まで外さなかった。
店頭には、昔ながらの茶碗と、持ち手つきの器が並んだ。どちらが本流かという札はつけなかった。
祖母の茶碗には、小さな欠けができた。
「作り直す?」
娘が聞くと、祖母は首を振った。
「これは、私が使った跡」
父は欠けた部分だけを滑らかに直した。
家業を守るとは、同じ形を焼き続けることではなかった。
家族の手が変わるたび、その手で持てる器を作り直すことだった。