焼け跡の間取り図

 祖母の家が焼けてから、大人たちは口をきかなくなった。

 長男は「古い配線を直すべきだった」と次男を責めた。

 次男は「家を売ろうと言ったのに反対した」と長女を責めた。

 長女は「誰もお母さんの様子を見に来なかった」と二人を責めた。

 消防の調査では、原因は壁の中の電線だった。誰か一人のせいではないと分かっても、三きょうだいは集まらなかった。

 小学三年の孫に、学校で〈大切な場所の地図〉という宿題が出た。

 焼けた家を描こうとしたが、間取りを覚えていない。

 長男へ聞くと、台所は南側だと言った。

 次男は「北だ」と譲らない。

 長女は、二人とも違うと言った。

「どれが本当?」

 孫は三枚の透明な紙へ、それぞれの記憶を描いてもらった。

 重ねると、台所も廊下もずれた。けれど三枚すべてで、縁側の同じ場所に丸があった。

〈祖母が座っていたところ〉

 学校の発表会へ、三人の大人が別々に来た。

 孫は透明な地図を一枚ずつ壁へ貼った。

「家は三つありました」

「一つだろう」

 長男が言った。

「でも、みんな違うところを覚えてる。おばあちゃんの場所だけ同じ」

 祖母は火事のあと施設へ移り、今は歩けない。家を再建する予定もない。

 孫は最後に、焼け跡の写真へ小さな四角を描いた。

「ここに、椅子を置きたい」

 土地を売るかどうかで、また三人は揉めた。

 それでも翌月、焼け跡の草を刈る日に全員が来た。家を建て直す金はない。代わりに、焼け残った基礎の煉瓦を並べ、低いベンチを作った。

 祖母を車椅子で連れてくると、どこが何の部屋だったか三人で説明した。

「台所はあっち」

「違う、そっち」

「二回、増築したから両方よ」

 祖母が笑った。

 間取りがずれた理由を、ようやく全員が知った。

 孫の地図には屋根も壁もない。

 その代わり、ベンチの周りから四本の矢印が伸びている。

〈長男の家から〉

〈次男の家から〉

〈長女の家から〉

〈学校から〉

 焼けた家は戻らなかった。

 けれど誰かを責めるための焼け跡は、家族がまた同じ場所へ来るための待ち合わせ場所へ変わった。