牙のない虎符

北塞の幕舎で、楚戎と陸槐は一枚の虎符を挟んで座っていた。

青銅の虎は縦に割られ、卓上にあるのは右半分だけだった。国境軍を動かす符なら、腹に七つの噛み合わせがある。だが目の前の虎には牙が一つもない。

「勝った方へ、左半分と百騎を与える」

都尉が言った。

楚戎も陸槐も、滅びた国の客将だった。帰る城はなく、剣だけが名刺だった。

二人の故国は、北塞の都尉が敵へ道を売ったために滅びた。証拠はない。生き残った兵の噂だけがあり、噂では仇を討てない。楚戎は百騎を得て故国の墓へ戻るつもりだった。陸槐は百騎を売って南へ行くつもりだった。

陸槐は虎符を一瞥し、立った。楚戎はもう一度、牙のない腹を見た。左半分など存在しない。都尉は一人を雇うのではなく、二人を一人に減らした後、その一人も消すつもりだ。偽の虎符は、約束に兵がついていない証拠だった。

それでも剣を抜いた。幕の外には都尉の弩兵がいる。二人で斬りかかっても、蜂の巣になるだけだ。幕の裾には、すでに先の挑戦者の血が黒く残っていた。都尉は毎月同じ約束をし、腕の立つ流れ者を一人ずつ減らしているのだろう。陸槐はその仕組みを知りながら、次に殺されるまでの給金を選んだ。

陸槐の剣は細く、刺突が速い。三合目、楚戎の頬が裂けた。

「符が偽物だと気づいたか」

楚戎が低く聞いた。

「気づいている」

「なら、なぜ俺を斬る」

「二人で死ぬより、一人で裏切る方が腹が満ちる」

陸槐は正直だった。浪人に残る最後の財産は、時に正直さだけだ。

次の突きが来たとき、楚戎は剣を捨てた。陸槐の目が、落ちる刃を追う。楚戎は卓上の虎符を掴み、牙のない割れ目で陸槐の剣を挟んだ。青銅を捻る。細身の剣が折れた。

楚戎は折れた切っ先を拾い、陸槐の喉へ当てた。

都尉が幕の外へ目配せする。弩弦の軋む音がした。

楚戎は虎符を都尉の杯へ投げ込んだ。

「百騎はいらぬ。東門を開けろ。敵へ、この偽符を売る」

都尉はしばらく黙り、やがて指を一本上げた。殺すより使えると値踏みした顔だった。

北塞の東門が開き、夜の砂塵が幕舎へ流れ込んだ。