狼煙台の豆袋
国境の狼煙台に集められた避難民は、三百人。残る豆は、二十袋だった。
守備隊長は「兵が先だ」と言い、避難民の代表は「子どもが先だ」と怒鳴った。あと一言で殴り合いになるところへ、臨時代官ガラムが空の椀を持って現れた。
「全員、今夜から同じ豆粥です」
兵たちがざわめく。ガラムは二十袋を隠さず広場へ積み、一袋ずつ封を切って重さを量った。合計を板へ書き、冬至までの日数で割る。
一人一日、豆半握り。見張りに立つ者は四分の一握りを追加。五歳未満と病人には、砕いて煮る分を先に取り分ける。隊長も代官も一人分。厨房でこぼれた豆まで、翌朝に数えて板へ戻す。
「そんな細かい配給では、戦になったら持たん」と隊長が言う。
「戦になる前に、内側で敵を作るほうが持ちません」
さらにガラムは提案した。狼煙台の南斜面には、収穫を終えた農家が置いていった乾燥豆の莢が残っている。拾えた豆は半分を拾った家へ、半分を共同袋へ。強制ではない。危険を感じた者は行かなくてよい。
翌朝、兵士が二人、避難民の籠を持った。避難民の大工は台所の崩れたかまどを積み直した。子どもたちは莢から小粒を選り分けた。誰も号令をかけていないのに、石段を上る列と下る列が途切れなかった。
二日目、守備隊の炊事兵が鍋底から豆を一握り抜こうとした。重傷兵へ多く入れたかったのだ。
ガラムは罰せず、板の「病人追加分」を指した。必要なら皆の前で増量を決められる。隠せば、明日の全員分が合わなくなる。
避難民の代表が先に頷いた。
「重傷者へ四分の一握り追加。その代わり、動ける者で莢拾いを一刻延ばそう」
兵も避難民も手を挙げた。規則は冷たい壁ではなく、全員が見える場所で直せる約束になった。
三日後、共同袋は二十袋から二十二袋になった。
夜、最初の配給鍋が煮えた。隊長は自分の椀を受け取り、列の最後へ座る。隣には、昨日まで睨み合っていた避難民の少年がいた。
ガラムが狼煙台の鐘を一度鳴らす。
戦を知らせる音ではない。
豆粥の湯気が上がる合図に、三百の椀が同時に差し出された。