王家という枯れ枝を落とす
果樹剪定人サナリスは、王宮の庭から追い出される寸前だった。
「枝を切るだけの女に、王樹の世話は任せられぬ」
新王は百年梨の枝を一本も切らせなかった。実が多いほど豊かに見えるからだ。枝は重なり、葉は日を奪い合い、根元から病み始めていた。サナリスが忠告しても、豊穣を妬む不敬として給金を止められた。
彼女の技能は、一日に一度しか使えない。
【命脈剪定:育てる木から、幹の生育を最も妨げる枝を一枝だけ切り落とす。枝の太さと距離は問わない】
戴冠一周年の夜、新王は王家の系譜図を大広間へ広げた。金で描かれた巨大な樹から光の根が伸び、国中の民へ食い込む。人々の寿命を吸い上げ、王一人へ実らせる不死の儀式だった。
城下では子どもの髪が白くなり、農夫が畑で倒れた。王は若返る自分の手を見て笑う。
「王家こそ国の幹だ。民は葉にすぎぬ」
宮廷魔術師は儀式を止められない。系譜樹を傷つければ、つながった国民全員の命脈が切れるからだ。
サナリスは剪定鋏を持って系譜図へ歩み寄った。樹を見れば、どこが幹かは分かる。何百年も国を育てた畑、道、家々、人々の名。それらが太い幹を形作っていた。
王家の金線は、その幹へ後から巻きつき、養分を奪って膨らんだ一枝にすぎない。
「実を独り占めする枝は、豊かさではありません」
鋏を一度閉じた。
音は小さかった。
だが王の冠から伸びた金線だけが、国中で一斉に切れた。吸われた寿命が光の雨となって民へ戻り、白髪の子どもに色が差す。系譜図の幹は無傷のまま青々と芽吹いた。
新王の若さは剥がれ落ち、盗んだ年月の分だけ老いた姿で玉座へ沈む。百年梨の庭では、重すぎた一枝が自然に落ち、残った枝へ朝日が届いた。
近衛兵は老いた王ではなく、寿命を返された民の側へ剣を向け直した。系譜図から金色の王名だけが剥がれ、空いた場所へ国中の村名が芽のように浮かぶ。サナリスは鋏を鞘へ戻し、百年梨の最初の一個を城下の子どもへ渡した。
《職業が【果樹剪定人】から【王樹剪定聖】へ書き換わりました》