画角の外のワンルーム

透子は玄関からベッドまでの細い通路を、紙袋を避けながら歩いた。週末に片づけるつもりだった通販の箱が二つ、脱いだカーディガンが一枚、床に置いたままになっている。

夕食の焼きそばを電子レンジに入れ、待ち時間にSNSを開いた。すぐに、同年代の女性の部屋紹介動画が流れた。白い壁、木目の棚、同じ色で揃えた収納ケース。〈狭くても心地よく暮らす〉という文字が、柔らかな音楽に乗って現れる。

透子も狭く暮らしている。心地よいかは、別の話だった。

動画の女性は、テーブルの上に小さな花瓶を置いた。透子のテーブルには、三日前のレシートと開封済みののど飴がある。コメント欄には「センスが素敵」「丁寧な暮らしに憧れます」。透子は自分の部屋を見回し、誰にも見られていないのに、足でカーディガンをベッドの下へ押し込んだ。

レンジが鳴った。焼きそばのふたを少し開けると、ソースの湯気で眼鏡が曇る。動画の部屋には、食べ物の匂いがなかった。生活の音も、洗い忘れたコップも、画角の外へきれいに退いていた。

透子は以前、自分の部屋の一角だけを撮って投稿したことがある。窓辺に本とマグカップを置き、床の紙袋は写らないようにした。友人から「おしゃれ」とコメントが来た。写真の外側で、洗濯物が山になっていた。

それを思い出すと、動画の向こうの女性にも画角の外がある気がした。散らかった場所があるのかもしれないし、本当に全部きれいなのかもしれない。どちらでも、透子の床が急に片づくわけではなかった。

焼きそばをテーブルへ運び、レシートだけゴミ箱に捨てた。箱は二つとも残した。カーディガンも半分ベッドの下から出ている。

一つ捨てただけでは、部屋紹介はできない。それでも箸を置く場所が少し広くなった。

透子は動画を閉じ、白い花瓶の代わりに水の入ったペットボトルをテーブルへ置いた。映えないし、ラベルも剥がれていない。でも喉が渇いたとき、ちゃんと役に立つ。

今夜は心地よく暮らせなくても、焼きそばをこぼさず食べられる面積があればいい。透子はそう決めて、ソースの濃い端から箸を入れた。