瘡蓋の水栓

ナディル・シャハーンの腕には、偽物の瘡蓋が百枚あった。

羊脂、樹脂、山羊の血。熱した針で皮膚へ押しつけたため、偽物でも痛みだけは本物だった。砂門の守兵は病人を城へ入れない。だが包囲軍の外へ追い返せば、風上の宿営へ病が広がる。疫病持ちは、城内の隔離井戸へ送る決まりになっていた。

密書は水袋の栓に巻いてある。棗の木を二つに割り、紙を挟み、膠で戻した。中には、城外の遊牧軍が夜半に北の涸れ川へ入ること、城兵は南の水門から討って出ることが書かれていた。

門医サーミクは布越しにナディルの顎を持ち上げた。

「熱は」

「三日」

「舌を出せ」

舌は乾き、血がにじんでいた。水を飲まずに来たからだ。病人らしく見せるためではない。水袋を空にすれば、栓を抜かれる。

サーミクが袋を振った。音はしない。

「空袋をなぜ持つ」

「水が手に入ると思った」

「城に水があると誰が言った」

短い沈黙が落ちた。門医は自分で城の弱みを口にしたと気づき、目を細めた。

「瘡蓋を一枚、剥がせ」

守兵が槍先を寄せる。剥がせば下は焼けた健康な皮だ。ナディルは迷わず腕を石壁へ擦りつけた。樹脂と一緒に皮膚がめくれ、黄色い膿が流れた。仕込んだ山羊脂が体温で溶けたものだった。

守兵が一歩退いた。

サーミクだけは退かなかったが、袋の栓へ伸ばした手を止めた。

「隔離井戸へ運べ。触った槍は焼け」

隔離小屋へ放り込まれた後、ナディルは初めて水袋へ口をつけた。栓を濡らせば膠が緩む。それでも一滴だけ舌へ落とした。喉が裂け、声が出なくなれば、合図を伝えられない。間者は秘密より先に身体を失う。身体が残った分だけ、まだ働ける。

井戸番のファリド・ジャミールは、夜になると一人で来た。水袋を火鉢へ置き、栓を二つに割る。紙を読み終えるころ、ナディルの腕は本当に熱を持っていた。

「戻る道は」

「病人に道を聞く者はいない。だが同じ病人を二度通す門番もいない」

ファリドは密書を井戸へ落とした。

北の砂丘で、遊牧軍の灯が一斉に消える。

「南の水栓を抜け」

石の水門が、砂の下で軋みながら開いた。