白い爪の誓い
結界塔の扉には、十個の窪みが並んでいた。
「獣の手を差し入れよ」
石壁の声が命じる。
リグヴァは右手の手袋を外した。五本すべてが象牙色の爪になっている。左手も親指を除く四本が同じだった。
戦いに勝つたび、彼の指は一本ずつ獣の爪へ変わる。爪は鋼も術式も裂くが、その指に結びついた約束が一つ消える。どの約束を失うかは、勝ったあとまで分からない。
九度の勝利で、彼は墓参りの約束を忘れ、借りた本を返す約束を忘れ、死んだ隊長の息子を探す約束さえ忘れた。
残った左の親指には、赤い糸が巻かれている。
「帰ってきて」
出陣前、妹のサフィネが結んだ糸だった。
塔の外では、黒角兵が最後の城門を破ろうとしている。結界を起動するには十の窪みへ十本の獣爪を差し、塔そのものに勝利しなければならない。勝てば城は守られる。だが最後の指も変わる。
「別の者を探す」と副官が言った。
リグヴァは笑った。「九勝した者が、十勝目だけ他人へ渡せるものか」
左親指を扉へ押し込む。人の爪が剥がれ、骨の奥から白い鉤爪が伸びた。十の窪みが満ちる。
塔が咆哮した。
壁から石の腕が生え、彼を押し潰そうとする。リグヴァは両手でそれを裂いた。爪は肉を切るより容易く岩を割り、中心の黒い心臓へ届いた。
一撃。
塔に勝った。
外で光の壁が立ち上がり、黒角兵を焼いた。城門の歓声がここまで響く。
リグヴァの親指から赤い糸が落ちた。
凱旋した彼を、サフィネが門前で待っていた。駆け寄ろうとして、十本の爪を見て足を止める。
「兄さん。約束、覚えてる?」
リグヴァは地面の赤い糸を拾い、首を傾げた。なぜこんなものを大切に握っていたのか分からない。
「おまえとは、何か約束したか」
サフィネは泣きながら首を振った。
彼女が背を向けたとき、リグヴァの爪が石畳を掻いた。胸のどこかが追えと騒ぐのに、理由がない。呼び止める名前さえ、約束の一部として薄れ始めていた。
十本の爪は城を守った英雄の証として月光を弾いた。
そのどれにも、人の指紋は残っていなかった。