白線の外の現在地
高速道路の救援窓口で、砥部玄弥は震える声を拾った。
「車が止まりました。場所が分かりません」
深夜の雨。若い運転手は初めて走る道で、地図アプリには山の中としか出ない。後ろから大型車が通るたび、風の音で会話が途切れた。
玄弥は車種や故障箇所より先に、今どこに立っているかを聞いた。
「運転席の横です。白線の外に出ました」
その答えで、玄弥は出動指令の入力を止めた。路肩は狭く、運転席側のすぐ外を車が走る区間かもしれない。救援車の到着場所を決める前に、二次事故を避けなければならない。
「車内を横切れますか。助手席側から出て、ガードレールの外へ移ってください。荷物は置いたままで」
運転手が移動する音を聞き届けてから、玄弥はキロポストを探してもらった。暗くて見えないというので、前方の標識、トンネル名、道路脇の非常電話の番号を順に尋ねた。三つの情報のうち二つが一致し、場所は上り線の七十八・六キロと特定できた。
運転手は「下り線だと思う」と言い張ったが、背後に聞こえるトンネルの警報音と、標識の行き先が上り線を示していた。誤った方向へ救援車を向かわせれば、次の転回地点まで二十分失う。
玄弥は正しい側へ出動指令を出した。到着まで、運転手にはガードレールの外から動かないよう伝え、会話を切らずに雨音の変化を聞いた。
救援車から、停止車両はカーブの直後にあり、後続車から見えにくかったと報告が入った。玄弥は発炎筒を取りに戻るよう案内しなかった自分の判断を記録した。故障した車を守るために人を危険な側へ戻せば、本末転倒になる。位置情報と安全確保を、同じ欄にまとめず別々に残した。
やがて黄色い回転灯が見えたという声がした。
「最初、車のそばにいろって言われると思ってました」
「車より、人を先に回収します」
通話を終えると、玄弥の休憩開始時刻は過ぎていた。温くなった缶コーヒーに手を伸ばした瞬間、別の回線が鳴る。
今度は「事故ではない、タイヤが少し変なだけ」と言う声だった。
玄弥はまず、どこに立っているかを聞いた。