白衣の人々

「看護師なんて、医者の言うことを聞く仕事でしょう?」

鷹取邦子は、親戚の前で何度もそう言った。美琴が結婚前に看護師だったと知ってから、嫁を呼ぶときまで「看護婦さん」になった。

邦子が精密検査を受ける日、美琴は付き添いを頼まれた。予約先は、水城国際医療センター。富裕層向けの特別棟で有名な病院だった。予約が取れたのは美琴が紹介状を手配したからだが、邦子は息子の会社の福利厚生のおかげだと思い込んでいる。前夜には検査の注意事項を美琴に三度読ませ、「専門用語は分かるの?」とまで尋ねた。

受付で邦子は声を張った。

「息子は大企業勤務ですの。個室は上の階をお願い。付き添いは嫁だから、廊下で待たせて構わないわ」

受付係が返事に困ったところへ、院長と白衣の医師たちが足早に現れた。

「美琴さん、お久しぶりです」

院長は邦子ではなく、美琴に深く頭を下げた。

「お父様から伺っています。帰国後、当院の看護教育部門を見ていただけるそうですね」

邦子が笑いながら割って入った。

「この子が? 昔ちょっと看護師をしていただけですよ」

待合にいた医師の一人が驚いて美琴を見た。数年前、海外の地震現場で重傷者の搬送を指揮した看護責任者として、院内研修の教材に載る人物だったからだ。

美琴は淡々と答えた。

「海外の災害医療チームにいました。結婚を機に休職しただけです」

さらに奥から、杖をついた水城医療財団の理事長が現れた。テレビで新病院の開設を発表していた人物だ。

「美琴、お義母様の検査は私が責任を持つ。家族なのだからな」

邦子の唇がわずかに震えた。

水城家は全国四十七の病院と研究所を運営する医療一族で、資産規模は鷹取家の想像をはるかに超えていた。美琴が白衣を着なかったのは地位がないからではない。結婚生活を優先し、現場復帰の時期を自分で選んでいただけだった。

院長が端末を確認する。

「特別棟の最上階は、水城家のご家族専用です。今回の予約も美琴さんのお申し出で確保されました」

邦子は、美琴を廊下で待たせるよう命じた自分の声を思い出した。

美琴は白衣の一団から差し出された職員証を受け取った。

そこには『水城国際医療財団・次期理事』と記されていた。