百億は米袋の中

穂積きさらの家族グループに、祖母から生前最後の音声が届いた。

『百億は、新米の袋ん中だ。仲良く分けろ』

兄の洸生が即座に通話を始めた。

「現金百億を米袋に?」

「現金とは言ってない」ときさら。

「金塊ならもっと重い」

「百億円分の金塊を米袋へ入れたら床が抜ける」

「では暗号資産の鍵だ」

「おばあちゃん、スマホの電源も切れなかったよ」

「だからこそ誰も疑わない」

二人が納屋へ駆け込むと、新米の袋が二十俵積まれていた。叔父夫婦も、音声を聞いて先回りしていた。

「ここは均等に四分割だ」と叔父。

「法定相続分を無視しないで」

「百億あれば誤差だ」

「税務署へは?」

「まず見つけてから考える」

「その発言、録音したから」

全員で袋を持ち上げ、振り、耳を当てた。叔父は金属探知機、洸生は紙幣計数機、叔母は海外送金の申告書まで用意していた。

「見つかる前から書類を書くの?」

「百億は準備の早い者を好む」

「お金に人格を与えないで」

「では百億の気持ちを聞いてみろ」

「袋から聞こえるのは米の音だけよ」

さらに一俵ずつ番号を振り、開封順まで抽選で決めた。

「この袋、音がする」

「米だよ」

「紙の擦れる音も」

「袋だよ」

「妙に冷静ね。もう見つけたんじゃない?」

「疑うなら身体検査する?」

「家族会議の進行が急に税関!」

ついに洸生が一袋の口を切った。白い米が滝のようにこぼれ、全員が床へ這いつくばった。

「札は?」

「ない」

「底だ、底に暗号が」

「踏まないで! 一粒も無駄にするなって祖母ちゃん言ってたでしょ」

「百億の前で米粒を心配するな」

「農家の孫が言う台詞じゃない!」

そこへ農協職員が駆け込んだ。

「何してるんです! 品評会用の〈百億〉を!」

四人の動きが止まった。

「……品種名?」

「今年、穂積さんが育てた新品種です。『百年先まで億人を食わせる米』で〈百億〉。登録申請中の大事な種籾ですよ」

洸生は床一面の米を見た。

「これ、いくら?」

「値段はまだありません」

叔父が小声で言った。

「つまり、時価百億もあり得る?」

農協職員はため息をついた。

「今は、ほうき一杯分です」