眠らせる火番
ティファスは、仲間を眠らせることに熱心だった。
野営地では火を小さく保ち、濡れた靴を石のそばへ並べ、夜驚を起こす剣士の枕元へ香草を置く。眠れない者がいれば話を聞くが、翌朝には誰にも言わない。
魔物を倒さない火番の貢献は0%。隊長ユリオスは、その表示を見て笑った。
「寝床を整えるだけなら旅館で働け。戦える者の取り分を減らすな」
ティファスは鍋の煤を拭い、火打ち石を置いて隊を離れた。
次の遠征で、仲間たちは大きな炎を囲んだ。明るいほど安全だとユリオスが言い、見張りを置かずに酒まで開けた。
眠りは浅かった。枝が鳴るたび誰かが剣を抜き、隣の寝返りへ怒鳴る。夜明け前には全員の目が赤く、手が震えていた。それでもユリオスは進軍を命じた。
森の奥で睡魔花が開いた。
甘い香りを吸った仲間は、立ったまま夢を見始めた。ある者は母親を魔物と思い、ある者は崖を故郷の玄関と思った。剣が仲間へ向く。
近くの村へ火打ち石を売りに来ていたティファスは、森から上がる煙の色で異変を知った。彼は隊へ戻り、大声で起こそうとはしなかった。火を土で伏せ、香草を燻し、ひとりずつ肩へ毛布を掛けた。
「眠るな」と叫ばれていた仲間たちは、「眠っていい」と囁かれて、ようやく夢から抜けた。
睡魔花は静かな呼吸へ反応して閉じる。隊は戦わずに森を出た。
森の縁で、魔術師が自分の杖を取り落とした。眠気ではなく、休めていない手が限界だったのだ。ティファスは責めずに拾い、温めた布を巻いた。誰もが、彼の火が身体だけでなく、苛立ちや恐怖まで冷え切らせないよう守っていたと知った。
ユリオスは帰還後、火番の復職を許すと言った。ティファスは鍋を受け取らず、仲間の顔を見た。
「休息を弱さと呼ぶ隊長の下では、誰も長く戦えません」
野営腕輪が過去の睡眠、疲労、誤射、判断遅延を再演算した。勝利の前夜に守られていたものが、初めて働きとして表示される。
《継戦貢献・真正算定》
申告値:0% → 真値:96%
働き順位:首位 ティファス
役割更新:火番 → 野営統括
旧隊長ユリオス:強制休養対象