石粉坑夫の星砂キャンディ

菓子店〈琥珀棚〉の開店札を見て、坑夫ボルガンは鼻で笑った。

「甘いもので腹が膨れるか」

そう言いながら入ってきたのは、店内から漂う蜜の匂いが本当にあるのか確かめたかったからだ。二十年、石粉の舞う銀坑で働き、舌も鼻も灰色になった。肉も酒も泥と同じ味。仲間は「岩のように丈夫」と褒めたが、ボルガンは食事のたび、自分まで石になっていく気がしていた。

腰袋には、昼に食べるはずだった黒パンがそのまま残っていた。噛んでも砂と区別がつかず、三口で諦めたものだ。給金が上がっても、祝い酒も焼き肉も楽しめない。仲間の笑顔に合わせて杯を空けるたび、ボルガンは豊かになったはずの暮らしから、自分だけ置き去りにされていた。今日こそ味が戻らなければ、鍋も杯も捨てるつもりだった。

店主クローデは反論せず、透明な飴を一粒だけ出した。中で金色の粒が星のように瞬いている。

「星砂キャンディ。舌に積もった石の味を、飴の中へ引き取ります」

「治療院で十年分は無理だと言われた」

「治療院は菓子を作りませんから」

ボルガンは豪快に噛み砕こうとしたが、クローデに止められた。

「舐めてください。二十年を一噛みで急がないことです」

しぶしぶ飴を転がす。最初は無味だった。やがて飴の中心に黒い筋が増え、代わりに舌先へ微かな酸味が戻った。次に蜜の甘さ、塩の粒の鋭さ、柑橘の香り。ボルガンの太い眉が、少しずつ持ち上がった。

クローデが水を差し出すと、彼は一口飲み、目を見開いた。

「水に、冷たさ以外の味がある」

飴は最後には炭のように黒くなった。それでも口の中には、金色の甘さが残っていた。

ボルガンは笑おうとして失敗し、代わりに袖で目を乱暴にこすった。

値段は銅貨四枚だった。彼は採掘袋から小さな銀鉱石を置いた。

「釣りは次に寄越せ。明日は箱で買う。坑道の連中に、飯がうまいってことを思い出させる」

重い足音が路地の向こうへ消える。クローデが黒くなった飴紙を片づけると、ちりん、と今度は軽いベルの音がした。