砂漠の三杯

赤砂のオアシスでは、旅人が来るたび村人の水が減った。

だから前の領主は、旅人から高い通行税を取り、村人には井戸を使わせなかった。税で深井戸を掘ると言いながら、三年経っても穴一つ増えない。

新しい守備官サヒールは、隊商宿の前に粘土板を立てた。

「今日から税は荷車一台につき銀片一枚。人と獣には、最初の三杯を無料にする」

宿主が目を剥いた。

「そんな額では儲からん」

「儲けません。井戸を掘ります」

粘土板には、入った銀片の数と使い道が毎晩刻まれた。掘り手の賃金、木枠、滑車、測量師の食費。守備隊の宴会にも、サヒールの衣服にも、一片も流れない。

さらに彼は、村人へ命じる代わりに二つの選択を示した。

一日掘れば、共同倉の塩一袋。

ラクダを貸せば、荷車税を一回免除。

何もしなくても、三杯の権利は減らない。

最初に穴へ入ったのは、毎日「役人は砂より役に立たない」と言っていた老掘り師だった。

「深さを間違えて税を無駄にされる方が腹立つ」

次に宿主が、古い滑車を持って来た。

「客が水待ちで逃げるよりましだ」

隊商の若者たちまで、出発を半日延ばして砂を運んだ。自分たちが払った銀片の行方を、初めて目で追えたからだ。

十二日目、穴の底から冷たい風が上がった。

老掘り師が砂をひと握り舐める。

「近いぞ」

次の一突きで地面が崩れ、黒い土の間から水が滲んだ。染みは筋になり、筋は小さな流れになった。皆が桶を差し出しかけ、ぴたりと止まる。

サヒールが三つの木杯を石台に置いたからだ。

一杯目は、穴を掘った村の老婆へ。

二杯目は、今朝着いたばかりの旅人へ。

三杯目は、喉を鳴らすラクダへ。

誰が先かで揉めると思われた三杯を、三者は顔を見合わせて笑い、同時に口へ運んだ。

翌朝、井戸の縁に新しい粘土板が掛かった。

――村人も旅人も、最初の三杯は同じ。

――四杯目からの料金は、次の井戸のために使う。

透明な水が石の水盤へ流れ込み、赤砂の上に、まだ誰の足跡もついていない細い道を作った。