砂金樋の休日

ミハルの川では、砂金が勝手に働いてくれる。

正確には、川辺に並べた魔導樋が水をすくい、砂を揺らし、金の粒だけを底の小瓶へ集める。瓶が満ちれば小型精霊が封をし、麓の両替商へ運ぶ。ミハルは三日に一度、落ち葉を払うだけでいい。

以前の職場では、彼女のほうが樋のようだった。

税務運送局の灰色制服は、腰の帳簿入れが擦れて穴になっている。朝から晩まで徴収箱を運び、誰かが遅れれば休日も走った。退職後も通信紙には赤い文字が浮かび続けた。

《緊急集金》

《代理輸送》

《回答期限、本日正午》

ミハルは一枚も開かず、焼きたての丸パンを籠へ詰めた。今日は川上の草原で食べると決めていた。

退職直後は、正午まで家にいるだけで胸がざわついた。誰かの箱が届かない気がしたからだ。けれど実際に届かなかったのは、彼女自身の休日だけだった。今度こそ取り戻すつもりだった。

出かける前、砂金樋の会計鐘が鳴った。

《小瓶三本、換金済み。今月分の食料費を受領しました》

数字は慎ましい。昔運んだ王侯の税箱なら、その何十分の一だろう。それでも、時間を売らずに得たパン代は、金貨の山より重かった。

通信紙が強く震え、元局長バルサの筆跡が直接走った。

《北門担当が倒れた。君は経路を知っている。二刻以内に出頭せよ。昇給も考慮する》

ミハルは紙の余白に返事を書いた。

《出頭しません。私はもう職員ではありません》

すぐに追記が浮かぶ。

《繁忙期だけだ。皆が困る》

《私が困っていた五年間、繁忙期は一度も終わりませんでした》

筆先が止まった。次の文字が現れる前に、ミハルは通信契約の印を水で洗い落とした。紙はただの白紙になり、川風に軽く揺れた。

彼女は擦り切れた制服を敷物代わりに籠の底へ入れた。もう着ることはない。役に立つなら、その程度でいい。

草原へ着くと、昼の鐘はまだ鳴っていなかった。

ミハルはパンを一つだけ食べ、残りを枕の横へ置く。雲が流れる速度を数えようとして、三つ目でやめた。

休日に数えるべきものなど、何もなかった。