破れ目の祝
堀田可鈴が帰宅すると、妹の作ったオムライスがテーブルに置かれていた。
薄焼き卵は中央で大きく破れ、そこから白いごはんが見えている。ケチャップの〈祝〉という字も、裂け目で二つに割れていた。卵からはまだ油の匂いがし、端は乾いているのに、破れたところだけが皿の熱を含んで柔らかかった。
妹は台所の隅で、結果発表の画面を見せてと言った。
可鈴はスマートフォンを伏せた。司法書士試験に落ちたことを、まだ誰にも言っていない。去年は三点足りず、今年は二点足りなかった。家賃の半分を出してくれる妹へ、「来年こそ」と言うのが苦しかった。妹は就職を一年遅らせ、可鈴が勉強に集中できるよう同居を続けている。
今年こそ受かれば、妹の学費を返す。広い部屋へ引っ越す。そう言って、参考書代も模試代も家計から出した。妹は一度も催促しなかった。その沈黙が、応援より借用書に見える夜があった。
結果はまだ出ていない、と朝に嘘をついた。妹はそれを信じ、先に祝うつもりで卵を焼いたのだ。破れた卵を作り直さなかったのは、冷蔵庫に卵が二個しかなかったからだろう。可鈴はそれを知っていながら、祝いの字だけを見ないふりで椅子に座った。
可鈴は〈祝〉の右側からスプーンを入れた。赤い線を崩し、乾いた卵とごはんを一緒に食べる。妹が「あ」と小さく声を出した。可鈴は止めず、左側の字も先に食べた。
いつもなら、ケチャップの文字を最後まで残す。誕生日の名前も、応援の言葉も、消すのが惜しくて周りから食べた。今日は祝われる人の形を、最初になくしたかった。
破れ目へスプーンを差し込み、そこから皿を空にしていく。最後に残ったのは、裂けた卵の細い一片だった。
可鈴はそれだけを皿の中央へ置き、スマートフォンの結果画面を妹へ向けた。
妹は数字を見てから、残った卵を見た。
「来年は、何て書けばいい?」
可鈴は一片を半分に切り、片方だけ食べた。
「祝じゃなくて、昼ごはんでいい」
妹はうなずき、家賃の振込予定を開いていた画面を閉じた。そして、来春からの求人ページを開く。可鈴は止めなかった。応援を失うのではなく、妹の一年を妹へ返すのだと思った。
皿には破れ目が少しだけ残った。可鈴は最後の半片を食べず、ラップをかけた。明日の昼、勉強を続けるにしてもやめるにしても、自分で作る食事の隣へ置くために。嘘の形だけは、もうなかった。